第7章 さんかく
すっきりと晴れ渡った五月晴れの空。
日曜日の午前中に相応しい、爽やかな陽気だ。
駅の噴水の前に立つ人々の中から長身を探すが、それらしい姿は見えない。
ちらりと腕時計を見る。
約束の時間まであと十分。
一つ息を吐いて、噴水前のベンチに腰かける。
まだ逢ってすらいないのに、何だか妙に疲れた気分だった。
思っていたより緊張していたのかもしれない。
知り合ったばかりの人と出掛けるというのは、それだけで緊張する。まして、相手は歳の近い男子。
意識するなという方が難しい。
「日高くん、ねぇ……」
先週、電車で痴漢に遇った私を助けてくれた恩人。
連絡先を交換し、連日のやり取りから、タオルは私が買って返すということで話は纏まったのだけど、何故か一緒に出掛けて買いにいくことになった。
ついでに、そこで私が何か奢ることを助けてくれたお礼にする、ということも。
そこまで言われて気付かないほど、私は鈍くない。
「……デート、だよね。これ」
年頃の男女が二人で出掛ける。
つまりは、そういうことだろう。
……因みに及川のことは除く。そこは認めない。先週の菅原との事も言わずもがな。
とにもかくにも、日高くんは私をデートに誘いたい相手だと思ったらしい。
まだ出逢ったばかりで大して関わりもないが、少なくとも好意的には見られている。
そういった意味でも、私の緊張に拍車をかける。
落ち着け。
私はただ彼にお礼を返しに来ただけ。それ以上でもそれ以下でもない。
自分自身に言い聞かせていると、唐突に肩を叩かれて身体を跳ねさせる。
「湯野さーんっ」
歌うような上機嫌な呼び掛け。
驚きに固まる私の顔をひょっこり覗きこみ、ひらひらと手を振る。
「びっくりしました?」
「しましたよ……」
脱力する私に、日高くんは悪びれない様子で「ドッキリ成功!」とおどけた。
「それはさておき、すみません。待たせちゃいました?」
「いえ、大丈夫です。今来た所ですから」
「あはは、なんかこういうの、付き合いたてのカップルみたいで面白いですね。さ、行きましょうか」
にこにこと愛想よく笑う日高くんに促されて、立ち上がる。
……よし、行こう。
緊張を解すように深呼吸すると、日高くんのあとを追った。