第7章 さんかく
「あ、え……湯野!?」
「お、お尻、触られっ、きもち、わるくて……っ、うぅ……!」
「だ、大丈夫大丈夫!もう行ったから!湯野が追い払ったからもう大丈夫だから!」
菅原の服の端を震える手で掴めば、若干の戸惑いを見せつつも「よしよし」と背中を撫でてくれる。
その手があんまりにも優しかったから、余計に涙が零れた。
「手、大丈夫か?さっき殴った方の」
「うぅっ、うん……タオル、巻いたから……ぐすっ、でも、こわ、うぇぇ……っ!」
「……俺は泣くほど怖かったのに、その相手を殴って、脅して、かつ冷静に拳を守る判断が出来る湯野の方が怖……いや、何でもない……」
微妙な表情の菅原に撫でられながらべそべそ泣いていると、横からハンドタオルが差し出される。
「どうぞ。痴漢に触れたタオルよりは幾らかましかと」
「あ、ありが、とう……ございます……」
笑顔と共に差し出されたそれをどぎまぎしながら受け取り、目頭を押さえた。
「あの、すみませんでした」
「え……?」
一しきり泣いた頃。
私が落ち着くのを見計らってされた、突然の謝罪に目を丸くする。
私がお礼を言うならともかく、謝られるようなことはされていないのに。
「気付くのが遅れました。俺がもっと早く気付いていれば……」
「え、そんなことは!寧ろこっちが迷惑をかけてすみません……!降りる駅、ここじゃないですよね?わざわざここまで付き合わせてしまってごめんなさい」
「いえ、綺麗な人が困っていたら助けるのは当然ですよ」
そう言って茶目っ気たっぷりにウインクする。気障だ。
気障で思い浮かんだのは及川だったけれど、目の前の彼に対しては及川のようなイラっとする気持ちは芽生えない。