第7章 さんかく
それを理解した瞬間、何とも言えない不快感が身体が支配する。
自身の身体を好き勝手にまさぐる手を掴んで捻り上げ、ふざけるなと恫喝したい。
けれど、身体が動かない。
今の私の中にあるのは、憤りではなく、得たいの知れない恐怖ばかり。
身体が芯から冷えていく。震えが止まらない。
気持ち悪い。
気持ち悪い!
吐き気が込み上げてきて、喘ぐように震える息を吐き出そうした。
けれど、強張った肺から上手く息が吐けない。胸が苦しい。
カタカタと細かく震える身体。
相手が気付いていないわけがない。
それでも、その手は止まらない。寧ろ動きは大胆になっていく一方。
--楽しんでいる。怯える私を見て、興奮している。
怒り、悔しさ、混乱、恐怖。色んな感情がごちゃ混ぜになって、涙が滲んだ。
けれど、私の身体は硬直したまま動かないのだ。
菅原がふっと顔を上げて、目が合った。
その顔が驚きに変わる。
私の様子がおかしいことに気付いてくれたらしい。
どうにか人を掻き分けて、私の方へ近寄ろうとする。しかし、如何せん人が多すぎる。中々こちらへは近付けない。
その間も手は好き勝手に蠢く。そして、臀部から更にその奥へと進もうとする動きを見せた。
激しく衝撃を受け、目を見開いた。絶望にも似た嫌悪感に、緩く頭をふって精一杯の拒絶を示す。
けれど、その反応を面白がるように手は動く。
嫌。
嫌だ、嫌だ!!
誰か、誰でも良いから……!!
目を堅く瞑り、ポロリと大粒の涙が一粒頬を転がった時だった。
「……いっっつ!!?」
悲鳴と共に、臀部を張っていた気持ちの悪い感触が消失した。
恐る恐る目を開き、そっと後ろへ振り返る。
そこには、痛みに顔を歪めるサラリーマン風の中年の男と、その手を捻り上げる背の高いあまり見慣れない制服姿の男子。
「――大丈夫ですか?」
耳障りの良い声に一瞬聞き惚れて、遅れてそれが私へかけられたものだと気付く。
慌てて頷き返せば、優しげに整った顔が緩む。
先程まで苦痛を訴えていた胸が、今度は嬉しげにトクンと大きく音を立てた。