第7章 さんかく
「……菅原のタラシ。そこまで言うなら、当然菅原が相手になってくれるのよね?」
「いや、折角のお誘いだけど、俺は止めておくよ。湯野の彼氏はちょっと荷が重い。俺じゃ釣り合わないよ。及川に睨まれるのもごめんだし」
「ごめん、冗談。菅原とは友達が良い。私だって菅原のファンに睨まれるのはごめんだもの」
「えぇ?俺にファンなんて居ないよ」
「この前、一年生に頑張って下さいって言われてたじゃない」
「あー……いや、あれはそういうんじゃなくて……」
「へぇ?じゃあ、どういうこと?」
形勢逆転。
しどろもどろになる菅原を問い詰めているうちに、次の駅に着いたのか電車が止まった。
自分達が立っている側のドアが開くことに気付き、菅原と離れて端に寄る。と、ドアが開いた瞬間に、ドッと人が乗ってきた。
「え?あ……」
その勢いに流されて、気付けば菅原とは結構離れた位置に人に埋もれて立っていた。
車両の中はぎゅうぎゅう詰め。菅原の近くには、とても行けそうもない。
菅原と顔を見合わせれば、苦笑いが返ってきた。
どうせ烏野まではあと数駅。お互いの様子を確認出来るくらいの距離だし、問題はないだろう。
そう思ってスマホを取り出す。
来ていた通知に返事をする作業に、暫く没頭していた時だった。
……ん?
何だか臀部に触れるものがあって、居心地悪さに身動ぎする。
ぎゅうぎゅう詰めで狭いため、大して動けはしなかったけれど、すぐにそれは離れていった。
サラリーマンの鞄か何かだろう。
特に気にすることもなく、再び画面に目を落とす。
しかし、程なくしてまた臀部に触れる感触。
もう一度身動ぎしたが、今度は離れない。
何かと眉を寄せたその時……触れてたものが、動き出した。
「…………っ!!」
全身が総毛立つ。
それは、間違いなく意思を持って動いている。
無機質でない、服越しに生暖かさを感じるそれは--人の、手。