第6章 月曜日
「あ、あのー……俺、沙々羅ちゃんのお迎えに来たんだけど……。一緒に遊びに行こうとしてたんだけど……」
「……女子校のミスと行ってくれば?」
「うぐっ!……だ、だからもう別れたって……!」
「じゃ、大学生?それとも一年生?……あぁ、IT企業のOLさんもだっけ?」
チクチク棘を交え、とびっきりの笑顔で告げれば、及川は顔を覆って「もうヤメテ!!」と叫びだした。
ひとしきり笑ってから、顔を見合わせれば、麻子は肩を竦めた。
「丁度良いんじゃない?荷物持ち」
「……だ、そうだけど?」
「お、お供させて下さい……」
「ふふん。よろしい。心して荷物持ちをしなさい」
がっくり肩を落とす及川の様子を満足に眺めた麻子は、今度こそ校舎へ踵を返す。
「及川」
ふと思い立って、私は裏門に寄りかかって「沙々羅ちゃんとデートが……」と呟く及川の元へ戻る。
「沙々羅ちゃん?お友達呼んで来るんじゃ……」
「……ありがとう」
照れ臭くて、少し目をそらしながらも小さくお礼を口にした。
「……さっき、周りに女の子たちが居たのに、私を優先してくれたから。助けようとしてくれたから。だから、ありがとう……」
「…………」
いつもはうるさいくらいなのに、何故か及川は何も言わない。
その沈黙に耐えきれなくなって「それだけ!」と告げると、慌てて麻子のあとを追った。
「…………だから、そういう不意討ちは反則でしょ…………」
及川は唸るように呟いて、片手で目元を覆いながら空を仰ぐ。
その耳が赤く染まっていたことを、私は知らない。