第1章 洗濯日和
――全国へ。
そんな夢みたいなことだって、現実的なものとして捉えられるようになっていた。
……自分は選手としてではない、ということが少し胸にチクリと刺さるけれど。
それ以上に喜びの方が優っていた。
「……よしっ!」
最後の一枚を干す。
爽やかな風に吹かれて、カラフルなゼッケンがたなびく光景は中々に壮観だ。
この光景を見るといつも「やりきった!」という達成感に満ちる。
そうして満足感に浸っているところで、大抵アイツが来て……、
『もう終わったの?さっすが沙々羅ちゃん。仕事がはやいねー。きっと、沙々羅ちゃんは良いお嫁さんになるよ』
『その良いお嫁さんを貰えた幸せな旦那さんは、もちろん俺ってことで!』
「……ばっかじゃないの」
ちゃらけた明るい声を思い出して、吐き捨てるように呟く。
アイツのことじゃない。本当の馬鹿は、私自身だ。
つまらない意地を張った。無駄に高いプライドで、平気なふりして格好をつけて。
本当は涙を流して、じくじく痛む胸を抱えて震えていたのに。
そうして結局は……、
「……あーもう、やめやめ鬱陶しい。今更感傷に浸るとか女々すぎる」
沈みかけの弱い心を振り払うように、頭を振った。
思い出に浸ってセンチメンタルな気分になっている暇はない。今は部活中。マネージャーの仕事は山のようにある。
考える暇があるなら手を動かすべきだ。
「湯野ー!次のスパイク練の球出し頼む!」
私の名前を呼ぶ澤村の声に、はっとした。
「はいはーい!」
慌てて返事をして、空の籠を持ち上げ走り出す。
頭を部活モードに切り替えた。
私は烏野高校排球部のマネージャー、湯野沙々羅。
自分自身に言い聞かせるように繰り返す。
未だに締め付けるような痛みを訴える弱い部分は、見ないふりをしてそっと蓋をした。