• テキストサイズ

【HQ!! 】ラブミーギミー

第1章 洗濯日和



 ――全国へ。

 そんな夢みたいなことだって、現実的なものとして捉えられるようになっていた。

 ……自分は選手としてではない、ということが少し胸にチクリと刺さるけれど。

 それ以上に喜びの方が優っていた。

「……よしっ!」

 最後の一枚を干す。
 爽やかな風に吹かれて、カラフルなゼッケンがたなびく光景は中々に壮観だ。

 この光景を見るといつも「やりきった!」という達成感に満ちる。
 そうして満足感に浸っているところで、大抵アイツが来て……、

『もう終わったの?さっすが沙々羅ちゃん。仕事がはやいねー。きっと、沙々羅ちゃんは良いお嫁さんになるよ』

『その良いお嫁さんを貰えた幸せな旦那さんは、もちろん俺ってことで!』

「……ばっかじゃないの」

 ちゃらけた明るい声を思い出して、吐き捨てるように呟く。

 アイツのことじゃない。本当の馬鹿は、私自身だ。

 つまらない意地を張った。無駄に高いプライドで、平気なふりして格好をつけて。
 本当は涙を流して、じくじく痛む胸を抱えて震えていたのに。

 そうして結局は……、

「……あーもう、やめやめ鬱陶しい。今更感傷に浸るとか女々すぎる」

 沈みかけの弱い心を振り払うように、頭を振った。

 思い出に浸ってセンチメンタルな気分になっている暇はない。今は部活中。マネージャーの仕事は山のようにある。
 考える暇があるなら手を動かすべきだ。

「湯野ー!次のスパイク練の球出し頼む!」

 私の名前を呼ぶ澤村の声に、はっとした。

「はいはーい!」

 慌てて返事をして、空の籠を持ち上げ走り出す。

 頭を部活モードに切り替えた。

 私は烏野高校排球部のマネージャー、湯野沙々羅。

 自分自身に言い聞かせるように繰り返す。

 未だに締め付けるような痛みを訴える弱い部分は、見ないふりをしてそっと蓋をした。


/ 72ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp