第6章 月曜日
……また。
また、なのか。
麻子まで、あの子のように。
絶望的な気持ちで、拳を固く握り締める。
「……あ」
思わずと言ったような及川の声に顔を上げると、バッチリ目が合う。
その視線を追って、一斉に向けられる女子たちの驚いた顔。その中には、当然麻子も含まれていて。
「え、さら!?」
慌てふためく麻子を見て、「やっぱり」と胸の奥が冷たく凍り付いていく。
……これは、仕方のないこと。
今までだって、何度も経験したこと。
恋は毒だ。
いとも容易く、人の心を狂わせてしまう。
わかっている。そんなこと、わかりきっていた、はずなのに。
震えが、止まらない。
麻子に裏切られたという事実が、頭の中で汚泥のようにへばりつき、重く粘度を持って剥がれない。
堪えがたかった。
意味のない言葉を叫びながら、耳を塞いで、目を固く閉じ、今目の前にあるもの全てを拒絶したいくらいに。
この場に居たくない。麻子の顔を見れない。
唇を戦慄かせながら蒼白い顔を俯かせれば、及川が顔色を変えた。
「沙々羅!」
女子たちに背を向けて駆け寄ってきた及川が、私の顔を見るなりまるで自分が傷つけられたように顔を歪めた。
「ごめん。俺、また……」
及川のせいじゃない。
そう言いたくても、口を開いた瞬間に泣き出してしまいそうで、ただ首を横に振る。
「……行こう」
固い声と共に手を引かれる。それを振り払う気力もなく、女子たちの間を抜けようとした。
「ちょっ、ちょっと待ってよ!!」
しかし、麻子が前に飛び出してきてその行く手を阻む。
「どこ行くの!?」
「悪いけど、君には構ってられない。そこ、どいて」
いつになくピリピリした雰囲気の及川が冷たく告げた。
「はぁ!?さらを何処に連れてくつもり!?」
「君には関係ないよ」
「関係なくない!!」
しかし、麻子は不思議な程食い下がる。
都合の良い解釈かもしれないけれど、それはまるで、麻子が恋したはずの及川を咎め、憎んだはずの私のことを引き留めるようにも聞こえた。