第6章 月曜日
「でもさぁ、彼女じゃないのに迎えに来させるってなんなのって感じじゃない!?しかも全然来ないの!わざわざ迎えに来てくれた及川くんのこと超待たせてるの!!あり得なくない!?」
「え?……それはちょっと、酷いね。折角来てくれるのに」
「でしょ!?そんなに待たせるんなら帰っちゃえば良いのにって言ったら『待ってる時間が長いほど、逢えたときの嬉しさもひとしおだよ』って。……はあぁ、あんなにイケメンなのに性格まで良いとか何なのもう。及川くんホントカッコよすぎ……」
「へえ、一途なんだね。誰なんだろうね。その相手って」
「ホントそれ!『女の子は暗くなる前に帰らないと』って及川くんが言うから見たことないけど……って、さら?どったの?」
机に突っ伏して動かない私を、麻子が指先でつつく。
「……何デモナイデス」
「何で片言。おーい、大丈夫?」
「大丈夫、全然。超元気」
「えっと……さらちゃーん?」
その後の貴重な昼休みの時間は、私を訝しむ二人を言いくるめることに費やされることとなる。
最後に食べるつもりだったメロンパンは、その機会を逃し、鞄の奥に放置されることとなった。
「沙々羅ちゃん、お疲れー!」
「……」
放課後。
バレー部員以外は全員下校した時刻に校門前に立つ、青葉城西のブレザーを着たイケメン。
彼は、私を見るなり暗闇の中でもわかるほどパッと表情を明るくした。
「どうしたの?ちょっと元気ないね。疲れた?及川さんが癒してあげよっか」
などと言って、両腕を広げて近付いてくる奴の脇腹に手刀を入れる。
腹を押さえて崩れ落ちようとするところを、胸ぐらを掴み上げた。
「アンタのせいで私のメロンパン食べられなかったわけだけどこの落とし前どうやってつける気だ及川この野郎」
「今の脇腹への攻撃理由それ!?」
「理不尽!」と涙目で頬を膨らます男子高校生。可愛くないからやめろ。
街を歩けば女子の視線を独り占めする恵まれた容姿を無駄にする、この残念具合。
麻子が夢見心地で語っていたとは同一人物とは思えない。
そう、この残念なイケメンが件の及川徹。
そして、その及川をわざわざ迎えに来させながら、全然姿を現さない女子こそが……私、湯野沙々羅であった。