第5章 攻防戦
「だってさぁ、二年だよ?二年。俺、フラれてからもずっっっと沙々羅のこと好きだったんだよ?逢いたいなぁ。逢ったら文句言って、しこたま叱って。それからいままでの分どろっどろに可愛がってあげたいなぁ。……って、思ってたわけ。ずっとね」
顔をひきつらせて後ずさる。
及川は変わらず笑顔だったけれど、なんというか、こう、言葉の端々から滲むものがある。
……あれ、もしかして及川キレてる……?
「まぁ、そんな感じで二年間じっくり沙々羅と寄り戻す算段立ててる内に、色々煮詰まり過ぎちゃって。正直自分でも引いちゃうレベルなんだよね。今更フラれたくらいで諦めるわけないじゃん」
……おい、誰だ及川が私に未練がないとか言ったヤツ。
メチャメチャ未練だらけじゃんか。どうすんだコレ。
絶句する私に向けて、及川は右手を上げる。
「というわけで、沙々羅がもう一回俺のこと好きって言ってくれるまで、口説き続けることにしたから。……覚悟してね?」
挑発的な眼差しで私を貫き、キザったらしくピストルの形を作った指先を私に突き付ける。
その茶目っ気のある仕草は、及川ファンの女子が見たら卒倒ものだろう。
けれど、私には喧嘩を売られているも同然だ。
「……絶対言うわけないじゃない。そんなこと」
「いーや、言うね」
「言わないわよ」
「言うよ。絶対好きって言わせてみせる」
自信満々に不敵に微笑む及川を、苦々しい表情で睨み付ける。
バチバチと視線の火花が飛び散った。
頭の中で、試合開始のホイッスルが高らかに鳴り響く。
私に未練タラタラで、寄りを戻したい及川。
そんな及川から、全力で逃げきりたい私。
これが、長きに渡って続く、私と及川の攻防戦の始まりだった。