第5章 攻防戦
聞き覚えのある……どころじゃない。絶対聞いた。つい最近に。というか、つい昨日に。
「は?及川!?」
「はーい、及川さんでーす。沙々羅ちゃん、昨日振りー!」
語尾にハートが付いてそうな上機嫌な声で話しかけてきたのは、ついさっきまで私の思考のド真ん中にあった及川だった。
昨日の白ジャージとは異なる、白ブレザーにチェックのスラックス。
青城の制服姿だ。白のブレザーなんて、着る人をかなり選ぶ服の癖のに、さりげなく着崩してラフに着こなしている。
って、格好はどうでも良くて!何で及川が烏野に……!!?
心中パニック状態で目を見開いて固まる私を他所に、及川は笑顔で近付き手を差し出してきた。
「はい」
「…………ナニコレ」
「手。繋ごう?」
「…………何で?」
「うーん、俺が繋ぎたいから?」
と、何故か疑問系で首を傾げる及川。
そのあざとい仕草にイラッとして、無言でその手を叩き落とす。
「いった!?酷いよ沙々羅ちゃん!」
「喧しい!大体何でアンタが此処にいるのよ!?部活は!?」
「うちは月曜は練習休みなの。だから、沙々羅ちゃんと一緒に帰ろうと思って」
いけしゃあしゃあと宣う及川。
帰るも何も、私と及川の家は青城と烏野の丁度中間地点にある。
ということは、わざわざ家を通り過ぎて、真逆にある烏野まで私を迎えに来たということになる。
――昨日、自分を振った相手を。
「……何言ってんの?アンタ、私が昨日何て言ったかわかってる?」
「うん。フラれちゃったね。すっぱりさっぱり」
「だったら、何でこんな……!」
あっさりと言ってのける及川に、私はいきり立つ。
けれど、及川はにっこりと、
「でも俺、諦めるなんて言ってないよ?」
それはそれは、素敵な笑顔でとんでもないことを宣った。