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【HQ!! 】ラブミーギミー

第5章 攻防戦




「断った、か……」

 昨日のことを思い出す。

 街灯の柔らかい光に照らされた及川の顔。
 熱の孕んだ真剣な目。

 柔らかい声音で告げられた二度目の告白は、及川らしからぬ誠実でありふれた言葉で。

 一方で、息を止めていた私が吐き出したのは、「ごめんなさい」という逃げの言葉だった。

 しかし、及川はそれに落胆するわけでも怒るわけでもなかった。
 仕方がないといった風「そっかぁ」と微笑んだ。

 それ以降、及川は何事もなかったかのように、取り留めのない話ばかりを口にした。
 律儀な及川はそのまま私を自宅まで送り届けると、笑顔で手を振って帰って行った。

 まるで、告白などなかったかのような振舞い。
 恐らく及川は、私が気にしないように敢えてそんな振舞いをしたのだろう。

 だけど、私はその何も感じていないかのような態度に苛立った。
 私のことが好きだなんて本当は冗談じゃないのか、とか。
 諦めが早すぎる、とか。

 自分で振っておいて、そんな都合の良いことばかり考えた。

「……ホント、最低」

 へどが出る。
 どろりと胸の奥で渦巻く自己嫌悪感に苛まれて、行儀が悪いと思いながらも舌打ちした。

 及川は、一体何を考えているんだろう。
 今更私に告白なんかして。振られた癖に何でもない顔で私を送って。

 でも、一つわかることがあるとすれば、それは――及川はもう私に未練がないということ。

 あの切り換えの早さが、その証拠だ。
 私に振られることを前提で、想いを断ち切るために告白したのだろうか。

 そう。
 結局、諦めてきれていないのは、及川じゃなくて――私の方。

 再び大きくため息をついて、頭を振った。

 ……って、あれ?

 不意に、街灯によって不自然に地面に伸びた影に気付く。
 校門の前に、誰かが居る。

 誰かを待っているのだろうか。

 と言っても、今校内に残っているのはバレー部くらい。
 部員に用があるなら声くらいかけておくべきか。

 近付くと、私の足音に気付いたのだろう。校門の前に立つ人物が顔を上げた。

「お疲れ、沙々羅」
「…………え?」

 フランクにかけられた声に、素っ頓狂な声が出た。

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