第5章 攻防戦
「……中学卒業してから及川に逢ってなかったんだけど、最後に逢ったときに揉めちゃって。その関係で、ちょっと」
幾ら仲の良い部員たちとはいえ、私と及川の関係は無闇に話したいことではない。
澤村からの言葉を濁そうとしたその矢先。
「え!?湯野先輩って及川さんと仲悪かったんですか!?」
踏み込んでほしくない場所にズカズカ土足で入り込んで来る輩が一人。……影山だ。
「……。……いや、悪くはなかったけど……」
「いつも一緒に居たし、練習終わったら及川さんとくっついてましたよね」
「くっつい……いや、あれは及川が一方的に」
「え?でも誰も居ない体育館でしてたのに……」
「何を!?」
思わず突っ込むと、影山が目を逸らす。恥じらいを含みほんのり赤く染まった目許。
……嫌な予感しかしない。
「あー……えっと、あれです。…………その、及川さんと……ちゅーっと」
「ちょっ……見てたの!!?」
先程とは真逆に、今度は私が影山に詰め寄る。
「部室に忘れ物して戻ってきたら、体育館の電気がついてたんで、つい」
「あ、でも俺だけですし。他は誰も見てないっす」と、珍しくフォローする影山。
他は誰も見てないとか、そういう問題じゃない。
というか、あの空気の読めない影山に、フォローさせるほどのモノを知らず知らずの内に見せてた私って……!!
撃沈。
影山の前で羞恥に震えながら膝をつく。
なんで見てるのよりによってそういう時なの空気読めよいや場所考えなかった私の自業自得だけどそれにしたって、
「沙々羅」
肩に置かれたほっそりした手。
振り返ると、見事に固まる澤村たちに、阿鼻叫喚の西谷と田中。
そして、私の肩に手を乗せて、眼鏡を光らせる潔子。
「その話、詳しく」
……ねえ、潔子さん、ちょっと楽しそうに見えるのは私の気のせいですかね。