第4章 帰り道
相変わらず、人畜無害そうな顔してとんでもない性悪だ。
何も言い返せずに唸っていると、及川はけたけたと笑った。
「あはははっ、わっかりやす!素直すぎて逆に凹むなぁ……。まぁ、嬉しくもあるけど」
「は?うれし……?」
「うん。だって、二年間も俺に逢わないよう気を付けてたんでしょ?それってどういう形であれ、沙々羅の中で俺の存在が大きいってことじゃない」
……どんだけポジティブだ、コイツ。
ジュースの残りを煽ると、丁度通りがかった公園の入り口にゴミ箱を発見した。
「ご馳走さま」と言いながら缶を放る。ゴミ箱までは遠めだったけれど、缶は放物線を描き、吸い込まれるようにゴミ箱に入る。よしっ。
「こーら、お行儀悪いよ。沙々羅はそういう所でズボラなんだから」
及川は呆れ顔で私をたしなめる。
「人に見られてなければセーフ」
「俺は見てたけど?」
「及川は良いの」
おざなりに答えると、及川は驚いたように目を見開いた。
え、何その反応。
「や、だってアンタは他人じゃないでしょ」
「……うん、そっか。そうだよね」
噛み締めるように及川は呟く。
「ホント、敵わないなぁ……」
喜んでいるような、泣き出す寸前のような、複雑な表情で夜空を仰いだ。
「ねえ、沙々羅」
「……何」
「話がしたいって、言ったよね。わかってると思うけど、沙々羅が俺を振った時の話ね」
……来た。
漸く及川が本題に入ったことを悟る。逃げ出したい衝動に駆られたけれど、我慢する。
今逃げたって先伸ばしにするだけで同じこと。なら、今終わらせるべきだ。
自業自得であることは理解しているし、それ自体は詰られても仕方ない。
ただ、及川に何を言われようと――私に別れた理由を話すつもりはなかった。
及川から向けられる怒りを想像して、嫌なものが込み上げてくるような感覚がした。
意図せず表情が硬くなる。
及川は上を見上げたまま喋り出した。
「俺ね、沙々羅に逢ったらいっっっぱい言いたいことあったんだよ?一方的にフラれて、理由もよくわからなくて。連絡先は携帯ごと変えるし、学校では逃げるし 、家に行っても居留守されるし。結局進学先もわからないままうやむやにされたし。逢ったら色々言ってやるって思ってたんだよ?」
「は……」