第4章 帰り道
及川のことが、わからない。
一体、何を考えているのか。
及川を避けたのは、あくまで私の自己満足。
所詮私は及川にとって過去の存在でしかない。
浮気性に見えて案外一途で愛情深い及川だが、アイツの愛情は常にバレーへ一辺倒。
彼女が途切れることはないけれど、交際期間は非常に短い。案外恋愛には淡白な質だ。
それ故に、実際顔を合わせたところで及川が過去のことを言及したり、まして私に未練を持っているわけがない。
……と思っていたのに、いざ蓋を開ければ、はい、この通り。
まさか、自分を一方的に振った元カノをわざわざ追いかけてきて、話がしたいと言い出すとは。
何を思って私を追いかけてきたか、何が目的なのか。
……わからない。
一年以上を傍で過ごして、かなり親しい付き合いをしていたにも関わらず。
こっそりため息をこぼしていると、「そういえばさ」と、及川が私を指差した。
より正確に言えば、私の着ているジャージ。……男子バレー部の専用の、黒ジャージを。
「沙々羅、烏野だったんだね」
「うぐっ」
笑顔で放たれた言葉が、ぐっさり心に突き刺さる。
咎めるでも、嫌味ったらしくもない。
ただ、事実を言っただけという口振り。
だからこそなのか、猛烈な罪悪感となって私を襲う。
そんな私に気付いているのかいないのか、及川は容赦なく追撃をかけてきた。
「しかもバレー部マネージャー」
「ぐぅっ」
「烏野は何回か大会で見かけたし、この前は練習試合もしたのに、沙々羅居なかったよね」
「ふぐっ」
「ひょっとして……俺のこと避けてたからかな?」
「……ぐっは!」
カンカンカンと、頭の中でけたたましく試合終了のコングが鳴り響く。
痛いところを容赦なく突きまくる及川のえげつない心理攻撃。完全敗北だった。
確信犯だ。
こいつ、絶対にわかってて敢えて言ってやがった……!!