第4章 帰り道
自意識過剰だとは思うが、私は及川と遭遇しそうな場面を徹底的に避けた。
高校が異なる及川とは、普通に生活していればまず関わることはない。及川と接触する機会があるとすれば、それはバレーの大会会場。
会場には人が大勢集まるため、その中にこれといった外見的特徴もない私が紛れるのは容易であり、逆に及川は非常に目立つ。
青城のジャージが見えれば物陰に隠れ、女子の歓声が聞こえればそそくさとその場から離れる。会場ではなるべく東峰と行動するようにして、いざというときにデカイ図体の背後に隠れる。
努力の甲斐あって、この二年間私は及川と顔を合わせることなく、至って平和に過ごすことができた。
そして、これからも及川との接触を避けるつもりだった。
……それなのに!!
「何でこんなとこに居るの、あの馬鹿は……!!」
及川を理不尽に詰りながら、まばらな通行人の間を縫うようにして通りを駆け抜ける。
目的地はない。ただ、あの場から少しでも遠ざかるために走っていた。
あの場に残してきた日向たちが気がかりだけれど、携帯でフォローを入れる余裕はない。
迂闊だった。
この二年間がそうだったように、大会会場以外で逢うはずないと慢心していた。
高校が異なるといっても、放課後に練習試合が組める程度には近い距離。家は中学校では同じ学区内。
いつ鉢合わせしたっておかしくなかった。
「はぁっ……はぁ……!」
そろそろ体力が限界だ。
著しく運動能力の落ちた自身の身体を恨めしく思いつつ、スピードを落とそうとした時だった。
「――沙々羅っ!!」
背後から響いた声に、ばっと後ろを見る。
驚く通行人の視線を一手に浴びて駆けてくる、白地に水色ラインのジャージのイケメン。
ちょっ……何で追いかけてきてんのアイツ!!?
迫り来る及川を視界に捉え、止めかけていた足を無理矢理動かす。