第3章 昔日
倉本は及川と同じクラスの女子。クラスによく居る派手な女子グループのリーダー格で、前から度々私と及川のことに口出してくる。
今日は私のクラスまで足を運んで、取り巻きたちと大声で私のことを詰ってきた。全くわざわざご苦労なことだ。
いつもは気にもかけないのだけれど、今日は無性に気に触った。無視するはずがつい言い返し、売り言葉に買い言葉。
先生が来なければ、危うく取っ組み合いになっていた所だった。
何でもないことのように淡々と述べたのだけれど、及川はまるで自分が批難されたかのように、きゅっと柳眉を寄せる。
『……ごめんね。嫌な思いさせて』
『何で及川が謝るの。相手が勝手に嫉妬して色々言ってくるだけなんだから、及川は全く悪くないでしょ』
『でも……』
『でもじゃない。それを承知でアンタと付き合ってるのは私。及川は黙って私の隣でヘラヘラしてりゃそれで良いの』
ボールを拾いつつそう告げる。
何故かしんと静まり返る体育館。……あれ?
てっきり及川が『沙々羅ちゃん、大好き!』などとじゃれついてくるかと思っていたのに。
『……及川?』
不審に思って振り返り、ぎょっとした。
何故か、及川の顔が耳まで真っ赤に染まっていた。
『何やってんのアンタ』
『……や、ごめん待って。ちょっと見ないで』
片手で顔を覆いながら、気まずそうに顔を反らされる。その反応に、隕石が目の前に落ちてきたような衝撃を受けた。
及川が照れてる、だと……。
レア過ぎる反応に、感動と悪戯心がむくむく沸き上がる。
『え?何?もしかして照れてる?照れてるんですか徹くんは?』
『沙々羅、勘弁して。今はホントに』
『うわー!何その反応新鮮すぎ』
『ちょっと黙って』
些か乱暴に腕を引かれ、すっぽりと及川の腕のなかに抱き締められる。