第1章 狢
だが現実はそんなに甘くはない。五人の女達は銀時に酒を止めさせる為に壮大なドッキリを仕掛けただけだった。長谷川がそれに便乗したのなら良かったのだが、彼は違う。彼だけは銀時が本気で襲ったのだ。長谷川自身、今はもう襲われた事実を自ら封印しているようだし、全蔵も気を使ってこの女以外にはその事実を広めていないらしい。
「まあ、長谷川泰三が貴方の好みかどうかは知った事じゃないんだけど、女よりも男を抱きたい願望は否定出来ないはずよ。」
否定出来ない。そうだ、銀時には否定出来ない。
幼い頃から、何よりも普通でありたかった。普通の両親も欲しかったし、普通の容姿も欲しかった。普通の生活、普通の家族、普通の恋愛感覚———。
今は血の繋がった家族や容姿にこだわりは無い。松陽先生や寺子屋時代の幼なじみ、そしてかぶき町の人達のお陰で家族を手に入れた気がしたし、銀髪赤目の日本人離れした容姿も現代ではすんなり受け入れられている。けれど同性を恋愛対象として見るこの恋愛価値観だけは、自分でも受け入れられなかった。オカマとは違い、心が女である訳でもない。自分は男だと認めており、その上で男が好きなだけだ。
医学的にも同性愛者は病気持ちでも障害者でも無い事が発表されている。けれど、世間一般からの差別と疎外感は未だに酷い。結局の所、怖いだけなのだ。やっと手に入れた万事屋と言う家族を、自分の恋愛価値観だけで失いたくないのだ。だから今まで下ネタを連発したり、結野アナを祭り上げたりして、女好きを周囲にアピールし続けた。長年作り上げて来た仮面を外すのが怖い。それだけだ。