第1章 狢
*****
「ねえ、聞いて。」
寂しそうに揺れる双眸が銀時の意識を欲しているのが分かった。
「あの長くて綺麗な藤紫の髪が私の物にならなくても良い。あの柔らかい胸とお尻が私の物にならなくても良い。あの引き締まった躯が私の物にならなくても良い。あの白い肌も、泣きボクロも、唇も、指先も、処女も……。」
「あの群青色の瞳に私が映らなくても良い。」
「ただ可能性があるのなら、どんな形でもあやめに『私』を刻み付けたいだけ。これは私を見てくれなかったあやめに対する復讐劇。」
「ふふ、嘘。全部ただの言い訳。本当はね、貴方なら抱いてくれると思ったから。」
「貴方なら、———同じ悩みを持っている貴方なら、慰めてくれると思ったから。」
「だから抱いて。」
次から次へと悲しい女の口から零れるのは、諦めと無念と、一種の救いを求める言葉。この女も、本音は寂しいだけなのだ。自分が同性愛者であっても認めてくれる人物、———居場所を求めているだけである。
銀時は憐れむ事しか出来なかった。この女は、自分の居場所を求める為に、愛する人から嫌われようとしているのだから。同じ同性愛者である銀時を心の拠り所とする為に、愛するあやめから嫌われる選択をする。馬鹿な女だ。
そして、そんな彼女を心の底から拒絶しない自分もきっと……。
「そんな目で私を見ないで。無様なのは自覚してるから。さあ、目を閉じて私を別の人だと思って。声は女のままで悪いけど、せめてお尻の穴で相手してあげる。好きでしょ?」
もう、女を止める術はないのだろう。未だに動かぬ体は、きっとこの女に弄ばれる。銀時は全てを諦めて、視線を部屋の壁へと移した。