【Free! 】僕らの大好きなあの人は海のような人でした。
第6章 5Fr!『熱くなるFeelings』
笑い合って別れた二人。
真琴は夏樹がこちらに向かってくることに気づき、その場から逃げるようにして立ち上がる。
「____真琴……?」
背中に聞こえた大好きな人の低い声。
自分の名前を呼ばれただけになのに、全身に血が巡るようにドキドキと高鳴る鼓動。
「………あ………夏兄。………その、……居なかったから……探しに来たんだけど……」
少しだけ振り返りはしたものの、俯いたまま一向に自分の方を見ようとしない真琴。
夏樹は後頭部をガシガシと掻きながら小さくため息を吐いた。
「…………聞いてたんだろ?……俺と凛の話。」
伸ばした手が触れた先、真琴の体がビクリと跳ねる。
その頼りなさに駆られ、衝動的に抱き締めると、腕の中の真琴が小さく頷いた。
自分と大差のないはずの背中は小さく感じられ、その背中越しに伝わる震えは真琴の感情が溢れているようで、夏樹は抱き締める腕に力をこめる。
「……真琴………そのままでいいから……聞いていてほしい。」
夏樹の言葉に小さく頷く真琴。
夏樹の腕を掴んでいる手がキュ、と握られて。
「___あれは凛が中3の頃で、オーストリアに水泳留学したわりに、思うように結果も出ず、日に日に腐っていってたみたいでさ。そんな時、たまたま俺が競泳の遠征でオーストリアの大会に行くことになって、本当偶然に向こうで会ってね、その時のアイツ、本当に酷くてさ。」
反応のない背中を抱きしめながらゆっくりと言葉を続ける夏樹。
真琴は逃げ出したい気持ちと夏樹の言葉を聞きたい気持ちの中で揺れていたが、結局は逃げ出す勇気もなく、ただただ静かに彼の腕を掴んでいることしかできなくて。
「話している間もどこか上の空で、全てに対して投げやりな様子に心配になって遠征の間はずっと一緒にいたんだ。その中でだんだんと緩んできた凛の心に触れた時、今にも壊れそうなアイツが放っとけなくてさ。……求められるまま、応えて……」
言い淀む夏樹。
真琴は、きっと夏樹は、自分の言葉に真琴が苦しんでいることに気づいているのだろうと感じるが、声を出すことすら出来ない自分を情けなく思っていた。