【Free! 】僕らの大好きなあの人は海のような人でした。
第5章 4Fr!『戸惑いのheartbeat』
時計の針はいかなるときもその歩みを速めることも遅まることもなく、ただ淡々と一定のリズムで時を刻んでいく。
遙はなかなか進むことのない時計の針を睨み付けながら、教壇に立ち授業を進める教師の声をぼんやりと聞き流していた。
待ちに待った約束の日。
彼の頭の中は、数時間後に訪れるであろう幸せな時間のことでいっぱいだった。
ため息をつきながら前方に目を向けると、自分の前の席に座る真琴も同じようにチラチラと時計を気にしている。
この男が自分と同じことを考えていることは明らかで。
遙は窓の外に青く広がる空を見つめながら、再び大好きな人のことで頭を埋め尽くしていく。
「………ハル、…ハル……」
自分を呼ぶ小さな声の方へ顔を向けると、つい先ほどまで時計に意識を向けていたはずの真琴が、こちらを向いていた。
その顔は溢れだしそうになる嬉しい感情を押し込めたような微妙な表情。
「………何だ?」
「夏兄から今メール来てね。早く終わったから今からこっち向かうって!」
「!!!本当かっ!?」
授業中であることを忘れさせる内容に遙は思わず立ち上がりそうになるが、寸でのところで真琴によって押さえられた。
目を爛々と輝かせながら頷く真琴に、それを見つめる遙の目もキラキラと輝きを見せる。
「あと一時間か………」
「うん。その、"あと一時間"がとんでもなく長いんだけどね………」
苦笑いをする真琴に、全くだ、と頷く遙。
普段ならば然程意識もしない一時間も、今はとてつもなく長いわけで。
また、時を同じくして1年の教室にいた渚と江も真琴からのメールによって、遙たちと同じようにもどかしい時間を過ごしていた。
逸る気持ちとは比例することのない時間の進み方にそれぞれが胸を焦がしていく。
(早く、逢いたいな………)
知ってか知らずか同じことを考えていた4人は、今も自分達のために車を飛ばしている夏樹のことを思い浮かべ、少しだけ口許に笑みを浮かべた。