【Free! 】僕らの大好きなあの人は海のような人でした。
第3章 2Fr!『慈しみのdistance』
「じゃ、そろそろ、俺は帰るね?また、すぐ遊びに来るから、その時は一緒に遊ぼうねぇ!」
夏樹の"帰る"という言葉にあからさまに拒否を示す二人は、やだやだ、と激しく駄々をこね始めた。
「わー!そんなに俺と一緒にいたいと思ってくれてんの?嬉しいなぁ~♪でもさ、今日は我慢してよ。そしたら、今度俺の車で楽しいところ連れてってあげる。………どうかな?」
しゃがみこみ蘭と蓮と目線を合わせながら、にっこり笑う夏樹に二人は段々と落ち着きを取り戻し、目を輝かせていく。
そんな様子を少し離れて見ていた遙と真琴は、夏樹の対応の巧さに尊敬の念を抱く。
(やっぱり夏兄は凄いや………あんなに駄々こねてた二人がすんなり落ち着いちゃったし…。本当、格好良いんだよな、こうゆうところも。)
(あれだけ騒がれても嫌な顔のひとつもしない……夏兄の凄いところだな)
蘭たちと真琴母との別れを済ませ、橘家の外に出た三人。
遙と真琴は遙の家へと向かうと階段を数段登ったところで、違和感に気づき振り返る。
しかし、そこにあるはずの姿はなく、夏樹は、家を出てすぐのところで立ち止まり、空を見上げていた。
「………夏兄……?」
何故かこのまま夏樹が消えてしまうのでは?と不安に駆られ声をかけると、すぐに向けられたいつもの笑顔。
その笑顔はたちまち自分達の中から"不安"という文字を消す、特効薬。
「やっぱいいな。…岩鳶の空気も、夜空も、人も………すげー落ち着く。」
星を見ていた綺麗な瞳がこちらを向く。
心の奥まで見透かすようなその目に胸が高鳴り、震えた。
夜空の下、夜風に髪をなびかせている夏樹はとても綺麗で、二人は思わず息を呑む。
夏樹は少し俯いたままゆっくりと階段を上り、遙と真琴が立っている一つ下の段で再び足を止めた。
ふいに上げられた顔は、いつもの笑顔ではなく切なさを孕んだ憂いの笑顔を見せていて。