【Free! 】僕らの大好きなあの人は海のような人でした。
第3章 2Fr!『慈しみのdistance』
空が夕焼け色に染まった頃、真琴たちは修繕を中断し、帰路についていた。
今までこうして3人で帰ることはあったが、そこに夏樹がいる、ということが、嬉しくて堪らない。
今も隣で楽しそうに渚と話す夏樹をちらりと覗き見ると、その緩くパーマのかかったくせ毛が夕焼け色に染まり、キラキラと反射し、より一層彼の格好良さを引き立てている。
「ところでさっ!どうして学校まで来てくれたの~?本当にびっくりしたんだからねぇっ」
「ん?あぁ、こっち帰ってくる前に、うちの親が真琴の母さんに、俺が帰国したら岩鳶に顔見せろって言われてたみたいでさ。高校のことも聞いてたし、早くお前らに会いたかったから、乗り込んでやったんよ。」
あはは、と楽しそうに笑う夏樹の腕に渚が飛び付き、頬を刷り寄せる。
そして、その反対側に立っていた遙も、渚同様に腕を抱き締めるように絡ませた。
遙の隣を歩いていた真琴はその状況に出遅れた感を感じていたが、今からどうこうできるわけもなく、気付かれないよう小さくため息を漏らす。
(………ったく。あいつは甘え下手だなぁ……)
そんな真琴の様子を、横目で見ていた夏樹は、焦れったさを覚えていた。
(こいつらみたいに、もっと甘えてくればいいのに)
そして、夏樹は決意してしまう。
真琴を気持ちに素直にさせると____
このことは、真琴にとって吉と出るか、凶とでるか…………
その答えはいつか訪れるのだろうか?
そんなことを考えている内に、渚と別れる分岐点に差し掛かる。
せっかくの大好きな夏樹との再会は、別れを拷問と呼べるほど辛いものへと変えてしまい、夏樹の腕にしがみついたまま頑なに離れようとしない渚に、真琴と遙は苦笑してしまう。
しかし夏樹はそんな二人とは異なり、愛しげな笑顔を見せながら抱きつく渚の頭を優しく撫でていて。
「渚?……なーぎーさー??こっち向けってー」
楽しそうに渚の名前を呼ぶと、やっと持ち上がる寂しげな顔。
夏樹は、ふっ、と眉を下げて微笑むと、蜂蜜色の髪の下に隠れている額にキスを落とした。