Destination Beside Precious
第6章 4.Wanna Monopolize Love
「…嫌いになんてなるかよ」
凛が口を開くと、ずっと俯いていた汐は顔をあげた。
じっと見つめるローライドガーネットは濡れているような気がする。
行き場が無さそうにしている汐の手を握ってもう一度、汐の瞳をまっすぐ見つめて凛は言った。
「嫌いになんて、ならねぇよ」
璃保の言っていた〝昔は昔、今は今〟とはこういうことだった。
過去を肯定しているわけではないが、切り捨てているわけでもない。過去を踏まえて反省して今を過ごしている。
ならばそれを受け入れようと思う。
「凛くんと出会って初めて、知りたいし知って欲しい、今何してるのかなとか、会いたいなって気持ちを知ったの。凛くんかっこいいから、他の女の子にとられちゃうかもって思うときだってあるよ」
安心したようにこつんと、凛の胸に頭を預けて汐は小さな声で語った。
凛の、自分の〝好き〟が一方通行だったかもしれない、という思いがどれだけ杞憂だったのかよくわかった。
汐は好きという感情をあまり多く言葉に出さない人だった。
だから、本音を言えば、汐は自分のことをどう思っているのか不安に思うことがよくあった。
他の男にとられてしまうかもと思うときもあった。
しかしそれは自分だけではなかった。汐も同じだった。
「好きってすごいね、凛くんが教えてくれた気持ちだよ。...欲張りって思われちゃうかもしれないけど、あたし、凛くんを独り占めしたい」
凛くんが好き、と汐は顔を上げてはにかむ。
その笑顔にたまらず凛は汐を抱きしめた。
ちっちぇえ、あったけえ、と愛しさばかりがこみ上げる。
「汐、本当のことを話してくれてありがとな...。この間は悪かった。それと...独り占めしたいっての...すげー嬉しい...」
照れてしまって語尾が少しすぼむ。
汐の唇が紡ぐ独占欲に凛はたまらない気持ちになる。
「凛くんはどうなの?」
「俺も独り占めしてえよ」
嬉しい、と耳元で鈴の音のような可愛らしい声がした。
凛と和解できたことが嬉しい汐はいつもより少しだけ積極的になれたようで、凛の耳に甘く噛みついた。
ある衝動が凛の背骨から全身へ駆け抜ける。
背中に回していた手を腰まで下ろす。軽く唇を噛み、一度伏せた瞳を汐に戻し口を開いた。
「なあ汐、ひとつ訊きたいことがあるんだが」
「なに?」
「正直に答えてくれ。...鮫柄に穴兄弟がいるって話、本当か?」