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Destination Beside Precious

第16章 13.Sunny Then Rainy ※


(そうだ、夏貴も汐と同じでお坊ちゃんだった…)

凛は頭を抱える。忘れていた。

そこに並んでいたのは鞄や靴だった。他の人より持ってきている数は少ないが金額が桁違いなのである。
特に鞄は誰でも知っているような高級ブランド品で、持ってきた分だけでも総額を考えたら同室の部員が震え上がるのも納得である。

「鞄がどうかしました?」
ちょうど夏貴が装飾品類を片付けようと手にしていたところだった。
見覚えのある腕時計に、凛の頬が引き攣る。

「お前、その腕時計…」
「ああ、これ。姉さんとお揃いなんです。祖母からの入学祝いです」
汐とお揃いだと、夏貴は嬉しそうに凛に腕時計を見せる。
以前汐がつけていたものと同じスイス製の時計で、文字盤の刻印に凛は青ざめる。

「この部屋絶対泥棒入りますってー!!!」
同室の彼は外部からの泥棒を心配しているが、凛は寮内での窃盗事件の方が心配だった。
鮫柄にはそんな悪質な生徒はいないと信じているが、絶対に無いとは言いきれない。
万が一起こったとして、狙われるのはまず間違いなくこの部屋で、夏貴の持ち物だろう。そして被害額がとんでもないことになりそうだ。

夏貴の傍らに腰を下ろすと、低い声で詰め寄る。

「夏貴…。お前普段いくら持ち歩いてる?」
「はぁ?何でそんなこと…」
「金額によっちゃお前冗談抜きで窃盗に遭うかもしれねぇぞ」
迫るものを感じ取った夏貴は渋々凛の前で財布を開いた。
汐とお揃いのブランドの黒い長財布の中から、思わず凛もドン引きしてしまう人数の福沢諭吉が顔をのぞかせる。

「馬鹿!なんでこんなに現金入ってんだよっ!?」
「なんでって、無いよりはある方が安心でしょう」
表情からして至極真っ当な理由であると信じて疑っていない。
夏貴の危機管理が非常に甘いことがよく分かったところで、凛は特大級の溜息をつき、夏貴に強く言った。

「夏貴。これは部長命令だ」
「は?」
「お前の私物は全部鍵付きで保管しろ。んでその鍵は必ず持ち歩け。いいな?」
「はぁ?…わかりました」
「あと財布の中身は絶対に誰にも見せるな。たかられるぞ」
「…っ!…はい」
想像以上に世間知らずのお坊ちゃまだ。頭の痛い話である。

腑に落ちていなさそうだが一応了承した夏貴。
これでセキュリティについて少しはマシになっただろうと、未だに涙目な部員を宥め、凛は部屋を後にした。
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