Destination Beside Precious
第6章 4.Wanna Monopolize Love
「あの時のあたしは、あたしのこと好きって言ってくれるってことは、あたしのことを必要としてくれているってことだと思ってた」
今もそうだが、昔の自分はとても心が弱かった。
大切な人を失った穴を別の〝誰か〟で埋めようとしていた。
その〝誰か〟は、誰も、海子の代わりになんてなれる筈ないのに。
「だから、今自分がその人のこと好きじゃなくても付き合ってるうちに好きになるかもって思ってたの。それに、相手はあたしのこと好きでいてくれる。断ったら相手が悲しむって思って断れなかった」
汐はそう言ったけれど、相手が自分に好きだよと言ってくれても自分は返すことができなかった。
〝あたしも〟とは言えたが、〝あたしも好きだよ〟とは言えなかった。
「でもそれって、偽善でしかないよね」
結局、そんな自分が相手と一緒にいるのが申し訳なくなって、罪悪感に耐えきれなくなって別れて、を繰り返していた。
「最低だよね。相手の気持ちを踏み躙ってたと思う。本当に申し訳なかったと思ってるし反省もしてる。出来ることならひとりひとりに謝りたい」
「でもね、これは信じて欲しい。すごく最低なことをしてきたと思う。けど誰ひとり遊びだなんて思ったことはない。あの夜言った〝昔の人は好きじゃなかった〟って、このことだったの」
これが汐があの夜言いたかったことのすべてだった。
凛はおろか、人に話すことさえ初めてだ。
胸が誰かに握りつぶされたくらい痛かった。
「黙っててごめんね。あたし、凛くんに嫌われるのが怖くて言えなかった...」
凛の顔を見ることができない。怖い。
凛はこの話を聴いてなにを思っただろうか。