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Destination Beside Precious

第6章 4.Wanna Monopolize Love



凛のあとについていき、入ったのは空き更衣室だった。
冬の更衣室。もちろん暖房などついていない。
入った瞬間、冷たい空気が汐の全身を逆撫でした。
背後から聞こえたのは扉の鍵をしめる音。それがやけに頭の中で響く。途端に心臓が早鐘のように鳴り始める。
今この瞬間、ここは凛と汐ふたりの空間になった。


先に入った汐はベンチに腰をおろす。
その隣に凛も座った。
お互い無言だった。
どくどくと騒ぐ鼓動が凛に聞こえそうで汐は気が気でない。
しかしそれは汐だけでなく凛もそうで、今までにない緊張感がふたりの間に走る。

「凛くん、これ、ありがとう」
「ああ」
緊張感からか、喉が渇いて仕方がない。
汐は先ほど凛からもらったミルクセーキをあけた。
ひとくち飲むと、ミルクのやわらかな甘味が口の中に広がり、冷えた身体が暖かくなるのを感じた。

ふたりの間に2度目の沈黙が訪れた。
凛は汐の言葉を待っていた。
どれだけかかってもいいから彼女の口から本当のことを聞きたかった。
汐もそれをわかっていて、けれど言葉を探しすぎてしまってなかなか声を発することができない。
どうしよう、なんて言おう、そう考えてたとき、凛が口を開いた。

「うまい言葉なんかじゃなくていい。言おうとしてることをそのまま伝えてくれ」
汐の心情を察してかどうか、凛はそう言った。
汐は唇を噛んだ。凛が優しくて泣いてしまいそうだった。
震えそうになる声を押し殺し心を落ち着かせて、ひとつ息をついた後口を開いた。


「...この前の電話のときに言えなくてごめんね。あたし、すごく動揺しちゃって、凛くんを傷つけた...」
凛は無言で続きを促す。
横目で見た凛の瞳は普段と変わらない赤で、動揺の色は見られない。
凛の心は今落ち着いている。
汐の唇は続きの言葉を紡ぎだした。

「凛くんと出会ってから今まで、1回も触れなかったけど、今からあたしが話すことは全部本当のこと」
凛を信じて、すべて打ち明けよう。汐はそう思った。

大丈夫、凛なら受け止めてくれる。そう信じて。
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