Destination Beside Precious
第6章 4.Wanna Monopolize Love
午後の練習も無事乗り切って凛はひとり自動販売機の前に立っていた。
少し前までは冷たい飲み物しか無かったのに、いつの間にか温かい飲み物が見受けられる。
その中でも凛はよく飲む缶のスポーツドリンクを迷いなく選んだ。
ガコン、という音と共にドリンクが取り出し口に落ちてくる。
それを取り出すと凛はまた視線を上に戻した。
入れた金額は500円。凛が買ったスポーツドリンクは120円。
380円のお釣りだ。そのつり銭を取らずに凛は考え始めた。
(あいつ、なにがいいかな...)
気づけば汐のことを考えていた。
暑い季節ならば迷いなく練乳仕立てフルーツオレを選んでいた。
しかし季節は11月半ば過ぎ。
冷たい飲み物をあげても身体を冷やすだけではないかと凛は考える。
それに冬のプールサイドは寒い。
なおさら温かい飲み物のほうがいい気がする。
あわよくばこのドリンクをきっかけにして話の入りの重さを軽減できたら、などと凛は思う。
少し悩んだ後、飲み物のボタンを押した。
先ほどと同じようにガコン、という音と共に飲み物が落ちてくる。
凛はそれを取り出した。
買った飲み物は〝まろやか練乳仕立てミルクセーキ〟。
以前汐は牛乳が好きだと言っていた。
これは牛乳ではないが、〝牛乳を使った製品〟だ。
練乳仕立てミルクセーキ、名前からして甘い。飲まなくてもわかると凛は苦笑いを浮かべた。
買ったばかりのそれは手に持つには少し熱くて、汐に渡す頃までにぬるくなることはないだろう。
汐を探して話して和解しなくては。
ふたりの間に溝が生じても、やはり凛は汐が愛しいのだ。
はやく和解して抱きしめたい。キスをしたい。
小さなからだの温もりを独り占めしたい。
凛はスポーツドリンクとミルクセーキを持って踵を返した。そして息を呑んだ。
「汐...」
「凛くん...」
振り返ると汐がいた。
普段上がり調子の眉をすこし下げていた。
凛をまっすぐ見つめる瞳はいつものやわらかい光ではなく仄暗い光が宿っていた。
凛は声が出なかった。口火を切ったのは汐だった。
「ね、凛くんお話があるんだけど...」
「...ここじゃ誰かくるかもしれねぇし、場所変えようぜ」
そうやって言うのがやっとだった。
心臓が走り出す。
凛の手の中のミルクセーキがやけに熱く、スポーツドリンクがやけに冷たく感じた。