Destination Beside Precious
第6章 4.Wanna Monopolize Love
「アンタはなにか勘違いをしてるかもしれないけど、アタシはアンタを思って言ってるんじゃないわ。汐のためよ」
「アンタは自分本位で悩んでいるのかもしれないけど、汐のこと考えたことある?どうして本当のことを隠そうとしてたかなんて、アンタに嫌われたくなかったからに決まってるじゃない。ちょっと考えればわかる簡単なことよ」
凛の喉が動いた。
璃保の言葉で目が覚めたような気がした。
ずっと悩んでいた。なぜ、どうして、と。しかしそれは所詮自分本位だった。
汐の気持ちを考えていなかった。
そのことを璃保に気づかされて凛はありがたいような情けないような気持ちになる。
「嫌われたくないってことは、裏返せば凛のことが大好きってことよ。これ以上なにかいうことある?」
すべて言い切った、という表情の璃保に、凛は閉ざしていた口を開いた。
「璃保...」
「なに?」
「〝昔の人は好きじゃなかった〟ってどういうことだ?」
汐が本当のことを言わなかった理由は納得できた。
しかしこれには納得できない。汐は男を掌で転がすような女なのだろうか。
「...それはアンタが汐に直接訊きなさい。今言ったことは全部客観的な意見だから鵜呑みにするんじゃないわよ」
璃保は呆れたように凛に言う。
そして表情を正し、次の言葉を紡いだ。
「ひとつ言っておくけど、凛、アンタが汐を不幸にするような男ならアタシは迷いなくあの子にアンタと別れるように進言するわ」
迷いなど一切見られない発言だった。
璃保は冗談を言うような性格をしていない。
しかし脅しと呼ぶには璃保の瞳に冷たさは感じられなかった。
「汐はアンタと出会ってからすごく幸せそうよ。10年ずっと一緒にいるけど今まで見たことない表情をたくさん見せてくれるの」
わずかに口元に笑みを見せた。
凛は驚いた。それと同時に嬉しかった。
出会えて幸せなのは自分だけではなかった。
「昔は昔、今は今。話はそれだけよ。時間とらせて悪かったわね」
璃保は踵を返し歩き出した。
その背に凛は声をかけた。
「璃保!...その、...サンキュ」
「馬鹿ね。お礼なら汐と和解してキスなりハグなりしてからにしなさい」
凛を振り返ることなく璃保はそう言った。
凛からは見えなかったが、その顔には笑顔があった。
午後の練習を乗り切ってはやく汐と話したい、凛は璃保の背を見送りながらそう思った。