Destination Beside Precious
第6章 4.Wanna Monopolize Love
凛と璃保は普段だれも通らない通路に移動した。
お互い終始無言だった。ふたりの間に重苦しい空気が流れる。
顔を貸せと言ってきたからにはなにか話があるのだろう。
しかし璃保はなかなかそれを切り出さない。
「何か話か?朝比奈」
「璃保でいいわよ」
重い空気に耐え切れず凛は口を開いた。
璃保のほうが背が低いはずなのに凛は見下ろされている気分になった。
初めて会ったときも思ったが、璃保の発するオーラは同級生のそれとは思えない程の迫力がある。
「璃保、話があるんならはやく...」
「昔の汐のなにが気に入らないの?」
凛の催促を遮って璃保は切り出した。
汐は一昨日の夜の出来事を璃保に話したのだろう。
凛のことを非難しているわけではないが、低いトーンの声とロイヤルブルーの瞳は凛を容赦なく責め立てた。
「情報源がどこかは知らないけど、昔の汐の話ね、あれ2年とか3年とか、それくらい前のことよ」
まだ凛と出会う前の、凛の知らない汐の姿だ。
年数の問題ではない。凛の心を悩ませているのは過去を隠そうとする汐と、〝昔の人は好きじゃなかった〟という発言だった。
「元カレに嫉妬するのならまだ話は分かるわ。けどアンタは汐に対して苛立っている。昔の話をしなかったことがそんなに不満?逆に訊くけど凛、アンタは汐に自分の元カノの話をしたことあるわけ?」
凛は返す言葉に詰まる。
璃保の言う通り、凛も汐に昔の自分の恋愛を話したことがなかった。
しかしそれはなにか疚しいことがあったからではなく、過去を自分なりに昇華したからであった。
「言ってしまえばアタシの彼氏、汐の元カレよ。昔誰と付き合ってようと、今自分のことが1番ならそれでいいじゃない」
過去の恋愛遍歴がどうであろうと今自分が相手の1番であるならそれだけで十分。と言いたいのだろうか。
確かに璃保の言う通りだ。
事実凛も汐が素直に認めたらそうやって割り切ろうと思っていた。
しかし汐は真実を隠そうとした。
「...うるせえな。黙って聞いてれば偉そうに、璃保、お前になにがわかるってんだ」
凛はこう言ったが怒っているわけではなかった。
ただ、璃保の言うことがいちいち本当のことで癪だった。
だから、それを認めたくなかった。
「わかるわよ」
ひとつ呼吸を置いて璃保はこう言い放った。
「凛、アンタよりかは、汐のことを理解してるわ」