Destination Beside Precious
第2章 0.For Seasons
「にしても、もう夏休み終わって2学期かあ」
「〝もう〟じゃないわよ。〝やっと〟よ。やっと夏休み終わったわ。もう練習キツすぎ」
「みんな夏の練習ほんと頑張ってたよね。すごいよ、お疲れ様ね」
ありがと、と璃保は汐の頭にぽんと手を置く。
汐をはじめとするマネージャーのサポートがあったからよ、とロイヤルブルーの瞳が細くなる。
「これからあたしたちの代だね」
「そうね、これから1年」
「頑張ろうね、朝比奈部長!」
「ちょっとその呼び方。榊宮マネ長も、後輩たちを頼むわよ」
マネージャー長というが、実際は最高学年のマネージャーをそう呼ぶだけである。
だが、後輩マネージャーの指導と育成も本格的に行っていく点ではマネージャー長と呼べるのかもしれない。
実情3年の先輩が引退してしまったから、マネージャーは汐含め中学を入れても5人だけであるが。
ふと、代替わりのとき、引退する先代部長の桐谷あずみや、先代マネージャー長の佐田佳波が、自分たちの代になってからの1年はあっという間に過ぎていくと言っていたことを思い出した。
「これから先輩達がいないって考えると寂しいね」
汐達が中学1年の時からずっと一緒に泳いできた先輩達だ。
とても仲が良かったこともあって、彼女たちは引退してしまい部活に行ってももういないと考えると寂しい。
「先輩も高3で受験だけど、勉強の合間の息抜きとかで部活来てくれるって」
「ほんとに?楽しみー。...高3か」
ぽつりと呟いた汐の頭をこつんと璃保は小突く。
「まだ、高2の2学期が始まったばかりじゃない」
璃保の言う通り、今日は2学期の始業式だった。
汐は熟睡していたが。
「てか、アタシたちまだ高校生活半分も終わってないじゃない。それに、アンタはこれから楽しいライフが続くんじゃない?松岡凛いるし」
茶化すように璃保が笑うと、汐は満更でもないように頬を緩める。
汐はエレベーターのボタンを押した。
停止階のランプを見ると4階のランプが光っていた。
さらに、下に向かってきていることを示すランプもついている。
「それで、璃保、夏休みは会えたの?」
唐突に汐はそう切り出す。
式典の間外していたピアスをつけていた璃保は表情を変えずにこう答えた。
「地方大会のときに会ったよ。そのときにこれ、もらったの」
そういって璃保は両耳で対になっているピアスを見せる。