Destination Beside Precious
第2章 0.For Seasons
璃保の耳を飾る1粒のアクアマリンの他に、これまでつけていたダイヤモンドに代わる1対のロイヤルブルーの輝きがあった。
「璃保の目の色と同じだね。...綺麗」
「そう?ありがと。…あいつ、どうしてか知らないけど地方大会見に来てて久々に会ったと思ったら、さっきの泳ぎじゃまだまだだな、とか言ってきたの。失礼しちゃうわよね」
苦々しい表情と声で璃保はそう話す。
汐は璃保のレースを思い起こした。
あの泳ぎはまだまだと評するべきなのか、汐も苦笑を浮かべた。
予選の泳ぎをそう評価された璃保は、悔しかったのか決勝で予選以上の素晴らしい泳ぎを見せた。
3年含む他の選手を退けて、個人戦バタフライ100mで2位。200mで3位だった。
「ま、あいつのスタイルワンはバッタだからね。アタシに対してもドライで厳しいのよね。久々に会っての第一声がそれでちょっとムカついたけど、最後にこのピアスくれたのよ」
ピアスに触れながら璃保は微笑む。
思い起こしてるのは彼の姿だろうか。
背が高く美人で同い年の女子と比べるととても大人びているが璃保もまだ高校生。
恋するひとりの女の子だ。
汐は不意に見せる璃保のこの笑顔が大好きだった。
「遠距離、寂しくない?」
ややよそよそしい声音で控えめに訊く汐に璃保は視線をやる。
やがて、ふっと表情を緩めて語り出した。
「寂しくない。って言ったら嘘になるわね。けど、あいつも向こうで頑張ってるからアタシも頑張れるわ。アタシだって負けてられないもの」
そう語る璃保の笑顔は強く美しい。
改めて、璃保はすごいと汐は思う。
ふたりの間に僅かな静寂が訪れると、エレベーターの到着音が鳴った。
開く扉に迎え入れられるよう、汐は璃保と共にエレベーターに乗り込んだ。
そして扉は閉まった。
今日この日、高校2年の2学期が始まった。