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Destination Beside Precious

第2章 0.For Seasons



誰かが自分を呼ぶ声で目を覚ました。

「...お...しお...汐」
「ん...、あ...璃保...」
「起きた?始業式終わったわよ」

自分を呼んでいたのは親友の璃保だった。
おはよ、と言いながら美しい顔に呆れの笑みを浮かべ、璃保は汐に立つよう促した。
汐は小さくあくびをしながら立ち上がり周囲を見渡すと、人もまばらになっていた。
璃保に起こされなければ恐らく寝たままだっただろう。

「汐、爆睡だったわね」
「部長任命式は起きてたよ」


9月1日。今日は2学期の始業式だった。
始業式を執り行う前に新部長任命式があった。
任命式といっても、各部活の新部長が壇上に上がって名前を呼ばれたら一礼をするだけのものであったが。

「部長任命式なんて最初の10分にも満たないじゃない。なに?昨夜遅くまで課題でもやってたの?」
「それが課題は一昨日全部終わらせたんだよね」
「あ、そうなの?」
じゃあ何してたのと璃保は訊いた。
汐ははにかみながらこうこぼす。

「電話してたらね、寝るのいつもより30分くらい遅くなっちゃって」
「電話?ああ、松岡凛?」
「うん」
ふたりは講堂から採光の良い美しいエントランスに出た。
璃保は上から汐を見た。
昨夜のことを思い出しながら凛のことを話す汐は今まで見たことのないような幸せそうな笑顔を浮かべてる。

「鮫柄って確か全寮制よね?」
「うん。それに部活もあるしあんまり長い時間は会えないんだよね」
「そうね、男子校に女子1人で頻繁に押しかけるわけにもいかないしね」
「けど、会えない日とかはメールとか電話とかしてくれるから、いいんだ」
「へぇ、いい彼氏じゃない。松岡凛」

あんな怖そうな顔してるのに。と璃保は付け足した。
璃保の中の凛に笑っている記憶はない。いつも無愛想で仏頂面で口数が少なく眉間にしわが寄っているイメージだった。
つまり、あまり良い印象ではない。
しかし、風邪を引いた汐を心配して市内からひとり見舞いにくるあたり、なかなか優しさと男気のある男だという点は評価していた。

「凛くんね、あたしにはもったいないくらいだよ」
どうやら汐と一緒にいる時の凛は璃保の記憶の中の姿とは違うみたいだ。
彼のことを話す汐は幸せそうで、とても〝女の子〟だなと璃保は思う。
そして近々汐の惚気話を聞く会を汐と自分のふたりで開催しようと決めた。
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