Destination Beside Precious
第6章 4.Wanna Monopolize Love
「お願いします!」
「っしゃあす!!」
両校の挨拶で鮫柄とスピラノの合同練習は幕を開けた。
凛は向かって右からぐるりとスピラノ水泳部を見る。
否、正しく言えば汐を見た。長身美女の中にひとり、背の低い可愛い彼女。
普段と変わらない印象を受けた。
その表情に凛は、腹立たしいような寂しいような白々しいような、ひとことでは形容し難い気分になる。
汐の表情からでは感情を読み取ることは難しい。
凛には、今汐がどんな胸中なのかわからなかった。
合同練習は順調に進み、昼休憩を迎えた。
休日ではあるが長期休みではないから鮫柄の食堂は開いていた。
そこで両校は昼食を摂り、今は自由時間だった。
美人揃いのスピラノ部員と談笑する鮫柄部員がいれば、午前中の練習による疲労で机に突っ伏して寝ている部員もいた。
凛はぼんやりと汐のことを考えながら同学年の部員との会話に混ざっていた。
まだ汐とひとことも言葉を交わせていなかった。
あんな電話の切り方をしてしまったからどう話しかけていいか分からないし、汐とふたりで話しているところを他の部員に見られても後々面倒なことになる。
凛はため息をついた。
「そういや汐ちゃんすげーよな」
「なにが?」
また汐の話題だ。つくづく自分の彼女はモテると凛は眉を寄せる。
「マジ敏腕マネージャーだよなってことだよ!」
「それな!声の通りの良さもスゲーけど、一番はドリンクだよな!」
「だな!誰が作っても不味くなるドリンクをあんなに美味しく作るなんて汐ちゃんマジすげえよな!」
ふと1週間前に汐とした会話を思い出した。
あの時、練習中に飲むスポーツドリンクが不味いという話を汐にした。
粉末をそのまま溶かしてるからだよ、と汐は言っていた。
自家製スポーツドリンクは粉末を溶かすタイプのものしか知らない凛は、ほかにどうやって作るのか汐に訊ねた。
オリジナルのスポドリが美味しいと評判だと汐は笑っていた。合同練習のときのドリンクはあたしが作るね、と。
「でもなんか今日汐ちゃん元気なさげじゃね?」
「あーそれ俺も思った。なんか元気ないよな」