Destination Beside Precious
第6章 4.Wanna Monopolize Love
「汐、座りな」
部活終了後、璃保は汐を寮の自室に招いた。
翌日に控えた鮫柄との合同練習に備えてこの日の部活は早く終わった。
「寮で夕飯食べてく?って言いたいところだけど家で夏貴が夕飯作ってアンタを待ってるんだったわね」
床に座る汐の隣に璃保も腰を下ろすと早速話を切り出した。
「昼間なんとなく話聞いたけど、詳しく話して。なに、凛が汐の昔の恋愛について知っちゃったの?」
「うん...」
汐は昨夜のことのいきさつをすべて話した。
昨日元気がなかったように見えたのはおそらく汐の過去のことを考えていたからだろう。
汐は目を伏せた。昨夜の凛の表情と、〝は、なんだよそれ〟が頭の中で浮かんでは消えた。
「...それって〝今の〟汐は悪くないでしょ」
「え...?」
「今回の喧嘩?って〝過去〟の、凛と出会う前のアンタが繰り返した恋愛が原因でしょ?」
「うん」
「どんなに足掻いたって過去は変えられない。大切なのは〝今〟なんじゃないの?」
璃保は自分を擁護しようとしてくれているのだろうか。
汐は眉を寄せた。璃保の優しさを受け止めながら声を絞り出した。
「でも...あたしが昔のこと黙ってたから、それで凛くんを...」
「...凛の過去の恋愛事情なんて知らないけど、汐は凛から元カノの話聞いたことある?」
汐は無言で首を横に振った。
璃保はひとつ息をつくと話を続けた。
「それと同じ。過去に誰と、何人と、どんな恋愛をしてきたかなんてあまり話さないものよ」
アタシだって話さないもの、と璃保は言った。
璃保の話は納得できるものだったが頷いていいかわからなかった。
璃保の言う通りだと思う。しかし頷いてしまったら昨夜の自分を正当化してしまう気がした。
「汐がどうして凛に過去を話さないか分かるわ」
「...」
「凛に嫌われたくなかったから、でしょ?」
「...うん」
「恋愛感情のない恋愛を繰り返してきたこととその理由、それはあのときのアンタの心の不安定さの結果。でもそれはある種仕方のないことだったとアタシは思ってる」
「...」
「けどそれは昔の話。今の汐は違うわ」
「...違う?」
思わず汐は顔を上げた。
ローライドガーネットの瞳が揺れる。
「もう、馬鹿ね。そのことはアンタが一番理解してるじゃない。今の汐には凛がいるでしょ。アンタは〝ひとり〟なんかじゃないわ」