Destination Beside Precious
第6章 4.Wanna Monopolize Love
「凛くんお疲れさま。寒い中待たせてごめんね」
「おうお疲れ。今来たばかりだから気にするな」
翌日の部活帰り、凛と汐は会う約束をしていた。
凛は今来たばかりだと言ったが、実際は10分ほど前から待ち合わせ場所で汐を待っていた。
吐く息は白くて手は冷え切っていた。
「さみぃし、行くぞ」
「うん」
もやもやとした気持ちを抱えながら汐を待ってた凛だが、彼女が現れた瞬間に心が少しほっとしたのを感じた。
マフラーに半ば埋もれている愛らしい姿の汐に表情を柔らかくする。
「凛くん手冷たいね」
重ねられたのは温かい手だった。
汐の小さな手が凛の大きな手をあたたかく包み込む。
「汐の手、あったけぇな」
「あたし体温高い人なの。よく璃保にカイロみたいって言われる」
じゃあ湯たんぽのかわりになりそうだな、と凛は笑う。
しかしその笑顔もどこか空しいものに思えた。
「...凛くん今日元気ないね。どうしたの?体調悪い?」
しばらく歩いた後、汐はそう凛に言った。
軽く手を引かれた感覚。見ると心配そうに眉を下げた汐が上目で自分を見つめていた。
「...」
昨日チームメイトから聞いた話が頭から離れない。
そんなこと気にしても仕方がない、と自分に言い聞かせてもずっとずっと頭の中でぐるぐると、厭らしいほどに存在感を見せつける。
言いたいこと、訊きたいこと、聴かせてほしいことはたくさんある。
なのに、心のどこかで聞きたくない、知りたくないと思っている自分もいた。
猜疑心を持って汐に接するなど初めてでひどい罪悪感に駆られる。
それでも汐を前にして溢れてくるのは、疑う気持ちよりも、愛しいと思う気持ちや好きだという気持ちだった。
「凛くん、ほんと、どうしたの?」
「...なんでもねぇよ」
見え見えな嘘をついた。なんでもないわけない。
汐の目を見ることが出来ない。
「ほんとに?悩み事あって、もしあたしに話せるようなら話してね。あたしにできることがあったらなんでもするよ」
ならば、昨日聞いた話を全部話すからそれを嘘だと否定してほしい。
と、言えるわけもなく。
「なあ汐」
「なに?」
意を決して訊こうと思ったがやはりそれは無理だった。
しかし、目を見ることは出来た。
まっすぐ、深い薔薇色の瞳を見つめて。まっすぐ言葉を紡ぐ。
「キス、したい」