Destination Beside Precious
第6章 4.Wanna Monopolize Love
ポークソテーを口に運ぼうとした凛の手が止まった。
「あーそれ俺も聞いたことあるぜ。確か隣のクラスに汐ちゃんの元カレ?がいてそいつに聞いた」
「俺のクラスにもいるぜ。俺はそいつから聞いた」
「やっぱ可愛い子はみんなビッチなんだなー」
「汐ちゃん鮫柄に穴兄弟とかやばいだろ」
「穴兄弟とかやめろよ!ヤったとまでは聞いてねーぞ」
あることないこと、目の前で繰り広げられるえげつない会話に絶句する凛。
汐が異性に人気があることは知っていた。過去に交際経験がないわけないことは100も承知だった。
それでも凛は声が出なかった。
「松岡?どうした?」
呆然としている凛にひとりが声をかけた。
完全に上の空だった。これまでの汐の笑顔が浮かんでは消えた。
「たしか松岡、汐ちゃんと一時期噂されてたよな?」
「あぁ!あったよな!確か県大会前後だったよな」
当時の噂がまさか現実になってるとは露にも思わずふたりは言う。
「そんなこともあったな」
凛は箸を置いた。好物の肉を前にして吐き気が止まらない。胃がむかむかする。心臓はまるで全力で泳ぎ切った後のようにどくどくと脈打っていた。
「俺は先に部屋戻る」
「おー松岡」
「お疲れさん」
ポークソテーの残った皿ごと茶碗やお椀を重ねて立ち上がった。
凛の様子の変化に気づかなかったチームメイトは凛に一瞥をくれて見送った。
重ねた食器を返却口に置いて凛は食堂の出口へ向かう。
扉のもとで似鳥とすれ違った。
「あ!凛先輩お疲れ様です!」
「ああ」
凛の瞳は横を通る似鳥を捉えない。意識は似鳥になかった。
食堂を出ていく凛の背を見つめながら似鳥は首を傾げた。
(凛先輩、なにか様子が変だった...?)
こちらを全く見ずに出ていってしまった。
夏の地方大会前だったらそのことに対して何も思わなかったが、今は違う。
そうは思ったものの今から凛を追いかけて問い詰めるわけにはいかないからひとまず夕食を食べようと似鳥はカウンターへ向かった。