Destination Beside Precious
第6章 4.Wanna Monopolize Love
私立鮫柄学園。汐は正門の前に立っていた。
11月18日水曜日午後4時30分前。約束の時間よりも10分ほど早く到着した。
西の方角に姿を隠し始めた太陽がうっすらと校舎の赤煉瓦を照らしていた。
この日汐は部活の用事で鮫柄を訪れていた。
模試も終わり本格的に合同練習に向けて動きを見せていた。
今日は3日後に控えた合同練習の最終確認だった。
プールへ向かう道中何人かの男子生徒に声をかけられたが、それを軽くあしらいつつ鮫柄水泳部のいるプールへ足を急がせる。
もう何回目だろうか。正門からプールまでの道のりは覚えてしまった。
通された見学室からガラス越しに鮫柄水泳部の練習風景を眺めていた。
いや、正確にいえば凛の姿を目で追っていた。
先週の土曜、模試が終わった後に少しだけ会ってくれて、その時に凛が人通りの少ない場所でぎゅっと抱きしめてくれた。
あったけぇと、最近会えてねぇから充電、そう言っていた。
思い出すと身体の奥底がじゅん、と疼く。
そういえば前回こうして合同練習の打ち合わせにきたのは凛とまだ付き合う前だったなと汐は懐かしい気分に浸る。
今の関係になってから凛の競泳水着姿をちゃんと見るのは初めてだ。
前回は凛の姿を見ても胸がどきどきと騒ぐだけだったが、今回は違う。
胸が騒ぐのは同じだが、それに加えて身体の奥からなにかがこみ上げてくるような感覚がして頬も熱っぽい。
露になっている凛の上半身は、いつもあの胸の中にいてあの腕で抱きしめてもらっているということを汐に意識させた。
(なに考えてるのあたし...)
はあ、とため息をついてひとり反省する。
最近凛を見る目が少し変わった気がする。
どう変わったのか言葉では形容し難いが、前とは違う。
汐自身気づいていないが、凛のことを〝男の子〟ではなく〝男〟として見始めていた。無意識だが凛が汐の家に泊まった夜にした深いキスを忘れられずにいた。
汐は目を閉じて頬に手をあてる。
(今日は部活の用事。)
自分を律した。そうすると浮ついた気持ちがすっとおさまった。
それとほぼ同時に御子柴が見学室へ入ってきた。
「やあ、遅くなってすまないね」
「いえ」
「久しぶりだな榊宮くん」
わははと豪快に笑う御子柴に先代部長の桐谷あずみの姿を重ねる。
〝やっぱり似てる〟そんなことを考えつつ、すぐに話は本題に入った。