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Destination Beside Precious

第6章 4.Wanna Monopolize Love


 
「姉さん」
地元駅の改札を抜けた汐を待っていたのは弟の夏貴だった。
夏貴は汐の姿を見ると、イヤホンを外し自転車を携えながら汐の元へ歩み寄った。

「おかえりなさい」
「ただいま夏貴。寒いのに迎えに来てくれてありがとう」
「ううん、姉さんひとりだと暗くて危ないから」
汐の鞄を自転車のカゴに入れながら夏貴は笑う。
徒歩5分の距離なのだが、SCの練習がない日は毎回今日のようにメールを入れて迎えに来てくれる。

「姉さん寒かったでしょ。はい、これ」
そういって夏貴が汐に手渡したものは温かいカフェオレだった。
汐がそれを受け取ると夏貴はふわりと微笑んだ。普段は下がりがちな口角を上げた夏貴の笑みはやはり汐と似ていた。

「えー、ありがとう!夏貴もなんか飲む?買ってあげるよ」
「僕はいいよ、ありがとう。さ、帰ろっか」



街灯の少ない夜道を姉弟は並んで歩いていた。
時折見上げると、弟の横顔は別人に思えた。
気づいたら身長を追い抜かれていた。姉さん、と呼ぶ声はまだ少年のような響きを残すが昔とは違う。
それでも思春期を迎えてなお姉弟仲は昔と変わらずとてもよかった。

「晩ご飯どうする?」
「今日母さん何時に帰ってくるか知ってる?」
「お母さん?知らない」
「そっか。来る前に冷蔵庫見たら鶏むね肉があったよ」
冷蔵庫の中を確認してくるなんてしっかりした弟だ、など考えながら汐は思考を巡らせる。鶏むね肉を使う料理、なにがいいだろうか。

「姉さん明日模試なんでしょ」
「そうだよ」
「僕も」
「え、夏貴も?」
「うん。この前の学力テストで上から10人は何故か強制」
めんどくさい、と夏貴はぼやく。
模試、という単語は思わず汐の記憶の蓋を開ける鍵となった。夏貴に訊こうと思っていたことを思い出したのだ。

「ねえ夏貴」
「なに?」
「もう11月だね。...高校、どうするの?」
早いところではもうあと2ヶ月もすれば受験が始まる学校もある。
家ではあまり進路の話をしないから、汐は自分の弟が中学を卒業した後どうするのか知らなかった。

「僕?僕は...」
夏貴が口を開いた瞬間、汐の携帯のバイブレーションが鳴った。
見るとメールの受信を表す薄い紫色のランプが点滅していた。
携帯を開くと思わず汐の口元がほころんだ。

「...凛さんから?」
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