Destination Beside Precious
第6章 4.Wanna Monopolize Love
「さむ...」
吐いた息が白くなる。ダマスク柄マフラーに顔の半分を埋めながら汐は携帯電話の画面を眺めていた。
17:37。もうすっかり日が暮れるのが早くなってしまった、と夕日が見えることのない空を見つめる。
汐は駅にいた。地元へ帰る電車を待っていた。
スカートから伸びる脚に容赦なく冷たい風が吹きつける。
待合室は無く、10分ほど吹きさらしの駅のホームで立っていた。
(凛くん今日はトレーニングとか言ってたっけ...)
今日は部活がオフだったから、学校が終わったらすぐに帰宅の途についた。
明日に控えた模試の勉強でもしようかなど考えながらひとりで学校から駅まで歩いた。
最近は凛と一緒に帰る機会が少なくなっていた。
日が暮れる時刻が早くなってきたことを理由にスピラノの部活終了時間が早くなったことが原因だ。
去年まではそれをありがたく思っていたが今年は複雑だった。
去年まで隣にいなかった人が今隣にいるから。
(凛くん、会いたいなー...)
手は冷えきっていて、吐息は白かった。
こんなに手が冷たくなるなんて珍しいと思いながら汐は悴む手をこすり合わせた。
凛が汐の家に泊まりに来た夜からもうすぐ1ヶ月が経とうとしていた。
あの日以来お互い忙しくてゆっくりと会うことが出来ていない。
ぎゅっと抱きしめてもらったのも1ヶ月ほど前になる。
抱きしめられた時に感じる凛の胸の音、心地よい温かさ、力強くも優しい腕、キスの時に伝わる唇の温度や感じるやわらかさ、そこから漏れる吐息、幸福感。
すべてが恋しい。
凛に会いたい。今この瞬間どうしても恋しくて会いたくて仕方が無いのは寒さのせいなのか。
『会いたいな』
携帯を取り出して無意識にそうやって打っていた。
宛先に表示されるのはもちろん凛の名前。
送信ボタンを押した。
このメールを見て凛はどう思うだろうか。凛も同じ気持ちだろうか、などと考えてしまう自分に対して汐は唇の端を上げた。
吹きすさぶ冷たい風と共に電車の接近を知らせるアナウンスが流れた。
電車がホームへ入ってくるのとほぼ同時に携帯のバイブレーションが鳴った。
携帯に目を落とすとメールの受信を知らせる青いランプが点滅していた。
完全に停車して乗客を迎え入れる電車に乗り込みながら汐はメールの送り主を確認した。