Destination Beside Precious
第6章 4.Wanna Monopolize Love
「ねえ汐」
「ん?」
「アタシみたいな極道者...ヤクザとずっと友達でいてくれてありがとう...」
下を向く璃保の頬が少し赤い。
璃保が言った通り、朝比奈家は極道だった。
正しくいえば璃保は組の長の孫というだけで極道ではないが、社会や学校でそれは通用しない。
極道の孫、それだけで人は今も昔も璃保のことを煙たがる。
170cmの長身美女で、スポーツも勉強もこなす文武両道。
誰もが羨むほど才色兼備であり水泳部の部長も任される人望もある。
璃保はそんな人だった。
それは璃保の孤立を深めるには十分すぎたが、上面だけの馴れ合いを好まない性分の璃保は孤立してるくらいが楽だと言う。
広く浅くよりも狭く深く友好関係を築きたい、理解してくれる人がひとりいればそれでいいのだと。
素行があまり良くないのは一種の諦めだった。
すべての事情を知る教師たちが璃保へ向ける目は恐怖の色が隠しきれていない。
他のクラスメイトたちと同じ扱いをしてほしかったのに、彼らは璃保のことを遠ざけて干渉してこない。
部活のチームメイトには自分が極道の家の人間だとは明かしていない。家のことを知ってなお態度を変えなかったのは汐と海子と遠距離恋愛中の彼氏だけだった。
チームメイトに明かすことによって今まで築き上げてきた関係が崩れてしまうのではないかと思うと怖くて言えなかった。
「何言ってるの璃保」
何言ってるの、本当にその言葉通りだった。汐は柔らかに微笑んだ。
「あたしは璃保が好きだからずっと一緒にいるの」
璃保と出会って10年。10年間ずっと一緒だった。
「ありがとう。アタシも汐のことが好きよ。大好き」
璃保も汐もお互い彼氏がいるが、彼らよりもお互いを知っている。
もちろん彼氏にしか見せない表情もあるが、それ以上にお互いの良いところ悪いところを理解している。
お互いが1番の理解者だと思っていた。
「そうだ汐」
「なに?」
「鮫柄との合同練習の話なんだけど、11月21日に決まったから来週あたりに打ち合わせ行ってきて」
「はーい、部長!」
「だから、その呼び方」
お互い顔を見合わせて笑った。
璃保のこの笑顔を知れば誰も怖いなんて言わなくなるのに、と汐は思う。
11月も中旬を迎え空気は日本海側気候のそれになってきた。
もうコートの出番になる季節。
それは、高校2年の冬の始まりだった。