Destination Beside Precious
第6章 4.Wanna Monopolize Love
「汐、部活行こ」
「あー璃保」
6時限目の授業が終了し、璃保は荷物を持って汐の元へやってきた。
「て、まだ書いてないの?それ」
それ、というのは汐の机の上にある模試の判定用の志望校調査だった。
先ほどの6時限目の授業はホームルームの時間で今週末に行われる模試の説明だった。
模試の説明といっても大半は志望校についての話であったが。
「そんなのテキトーに書いて出しちゃいなさいよ」
テキトーといわれても、と汐は思った。
何しろ第8志望まで書く必要があるのだが、まだ第一志望すら埋まっていない。
「...明日書いて出すよ」
「そう」
汐は用紙をファイルにしまいながら考える。
(志望校...、か...)
高校2年の11月。修学旅行も終わりクラスメイトも少しずつ来年の受験を意識するようになってきた。
しかし汐は受験どころか高校3年生になっている自分ですら想像できずにいた。
将来の姿を見据えている人がちらほらと出てきている中、汐はまだそれが見えずにいた。
胸に小さなささくれが出来たような痛みを覚えた。
それは、目を凝らさなければわからないようなものであったが。
「ねえ璃保。璃保は志望校どこ書いたの?」
校舎からプールへ向かっている途中に汐はそう訊ねた。
「とりあえず関西の難関私大っていわれるとこを書いといた」
「そっか」
璃保の返事を聞く限り、書いた大学に対してさほど興味を持っていないことが窺える。
「てか、本音を言えば実家から離れられればどこでもいい」
「やりたいこととか...」
「無いわね。ただアタシは堅気の生活が出来ればそれでいい」
汐は璃保にやりたいことの話を持ち出したが、実際のところ汐も璃保と同じでやりたいことなど無かった。
「実家にいるとじいさんがうるさいじゃない。それに部下があれこれ世話焼きすぎるし、どこへ行くにも護衛...監視付き」
アタシは自由になりたい、と璃保は空を仰いだ。
冷たく乾いた空気が気持ちよく感じた。見上げた空は遠かった。
「そうだね。...あたしも自由になりたいな」
汐のつぶやきを耳にした璃保は汐の頭をぽんぽんと撫でた。
「じゃあアタシと一緒に自由になりましょ」
「なれるかな」
「なるのよ。お互い籠の中の鳥のままでいいわけ無いでしょ」
自由に、誰かに何かを言われることなく自分の好きなように。
それは汐の憧れだった。