Destination Beside Precious
第6章 4.Wanna Monopolize Love
「そういえばオーストラリアの海すごく綺麗だよね」
唐突に汐はそう言った。
そういえば修学旅行に出発する前に汐と会ったときにゴールドコーストに行くと言っていたことを凛は思い出した。
「ゴールドコーストか?」
「ゴールドコーストもすごく綺麗だったけど、あたしはシドニーの海の方が好きかな」
シドニーの海、凛がひとりオーストラリアに留学したときにずっと眺めていた海だ。
「なんだろ、見てて落ち着く?って言うのかな」
凛は横目で汐を見つめた。
驚いた、水に対して恐怖心を抱く汐が海を見て落ち着くと言ったことが。
汐の表情は穏やかなもので、嘘やお世辞を言っているのではないことがよくわかる。
「凛くんが留学してたときも同じ海見てたんだなって思ったよ」
汐は凛に微笑んだ。
胸にじわりとあたたかいものが広がるような感じがした。汐と今の関係になる前に凛がよく経験した感覚だった。
「いいだろ、シドニー」
繋いだ手を解き、優しく汐の頭を撫でた。
手を伸ばせば触れられる距離、触れられる関係。
愛しいな、と凛は思う。
「うん。あたしは泳げないけど、いつかあの海で泳いでみたいなって思った」
一瞬だけ凛の鼓動が大きくはねた。
深い意味で言ったわけではないと思うが、そのひとことは凛の胸を激しく突いた。
泳げないことを割り切っていたと思われる汐がこぼした思わぬひとこと。
胸にこみ上げる熱い何かを堪えながら凛は再び繋いだ手に力を込めた。
「俺が泳げるようにしてやる、もう一度。絶対に」
「ほんとに?じゃあ、そのときはよろしくね凛くん」
汐はあまり本気にしていないようだが、凛は本気だった。
誰かのために何かをしたい、その誰かは自分の大切な人で。
チームのためや自分のために何かをしたいと思うことはあっても、誰かひとりに対してこう思うのは初めてだった。
付き合い始めてまだ2ヶ月と少しだが、凛の中で恋が愛に変わり始めた瞬間だった。
「11月の半ばすぎくらいにまた合同練習があるよ」
「そうなのか?」
そう返したが先日似鳥からその情報を得ていた。
前回の合同練習から4ヶ月も経ったのかと凛はぼんやりと考えた。
「久しぶりにかっこいいとこ見せちゃうよ!」
あたしだってちゃんとマネージャーだからね!とおどける汐。
茶目っ気があって可愛い。
そんなことを思いながら、冬の足音の聞こえる夜道をふたりは歩いた。