Destination Beside Precious
第5章 3.Kiss? or More?
すっかり日が高くなった道を凛と汐は駅に向かって歩いていた。
澄み渡る快晴を凛は仰ぐ。空が高い、雲が遠い。
10月も中旬になり、日中でも上着がないと肌寒く感じる日が多くなってきた。
それでも吹き抜ける風は秋のそれで気分は清々しい。
木の葉もなまめかしい青から色づき始めていた。
季節の移り変わりを空や空気や風や植物で感じた。
鮫柄の寮で生活をしているうちに忘れかけていた感覚だった。
(空気がいいな...)
凛は深呼吸をした。肺いっぱいにきれいな空気を吸い込む。
少しだけ小学生の頃を思い出した。
「修学旅行、楽しんでこいよ」
「うん!凛くんが昨日話してくれたもの絶対食べるね!」
汐の通う聖スピラノ高校は明日の火曜から日曜まで修学旅行でオーストラリアだった。
「凛くんのお土産はコアラのぬいぐるみね。リンリンって名前にするのがいいと思う」
「そんなコアラにパンダみてぇな名前つけねぇよ」
「えーパンダじゃないよ、これは凛く...」
「知ってるよ、ツッコミ待ちかよ」
アホか、と汐のおでこにデコピンをかます。
痛い!と文句を言いたそうに汐は下から凛に非難たっぷりな視線を向ける。
「あ、日本とオーストラリアの時差は1時間だからな」
「うん。...て、え?」
「だから、1時間しか変わらねぇって言ってんだろ」
「うん、それはわかったけど」
「だからっ...!その、いつでも電話とかメールとかよこせって意味だよ!」
楽しい修学旅行に水を差すつもりは毛頭ないが、それでも1週間音信不通とは寂しい。
楽しそうな様子を写真におさめてそれを送って欲しいという意味で凛はああ言った。
「だったら初めから素直にそう言えばいいのに」
恥ずかしそうにそっぽを向く凛に向かって汐は笑った。
「うるせー」
「ほんとツンデレ」
「ツンデレじゃねぇし」
ツンデレだの違うだの押し問答を繰り返しているうちに駅に到着した。
「凛くん2日間ありがとね」
「俺も。さんきゅ」
もうすぐ電車が到着する時刻だ。ホームへ向かわなければならない。
「じゃあな汐。明日からオーストラリア、気ィつけて行ってこいよ」
「ありがと。いってきます」
汐のおでこに軽くキスをした後、優しく頭を撫でた。そして踵を返し改札へ向かう。
この2日間とても楽しかった。
凛が乗った電車が発車するのを見送った後汐は元来た道を歩き出した。