Destination Beside Precious
第5章 3.Kiss? or More?
「...ん、」
凛は目を覚ました。開かれたカーテンから差し込む朝日が眩しい。
左腕がじんわり痺れている。
汐はまだ寝ていた。
ふさふさとしたまつ毛に縁取られた目を伏せて、すぅすぅと寝息を立てている汐は小動物を思わせた。
凛は寝起きのぼんやりする頭でしばらく汐の寝顔を眺めた。
(キスしてぇ...)
汐の寝顔はどちらかといえば綺麗という言葉の方が似合うが、この時凛は可愛いなと思った。
今キスすると確実に汐を起こしてしまうから凛はもうしばらく寝顔を眺めていることにした。
空いた右手で汐の頭を撫でてやる。
「ぅん...」
寝ていた汐が身じろいだ。
ゆっくりと開かれたまぶたから赤紫色をのぞかせた。
「悪ィ、起こしちまったか」
「...りんくんぉはよ」
寝起きでふにゃりと笑う汐の唇に凛は軽くキスをした。
すると、少し目が覚めたらしく汐は凛のとなりでもぞもぞと動き出した。
「おはよーのちゅーってやつ?」
「そーだ。お前からはねぇのか?」
くすくすと笑う汐に凛は意地悪く言う。
えー、といたずらな笑みを浮かべる彼女は本当に可愛いと思う。
今のこのベタ惚れっぷりを半年前の自分に見せたらどんな反応をするだろうかなどと考えてしまう。
汐は両手で凛の頬を包むとそのままちゅっと軽くキスをした。
「凛くんってほんとにキス魔だね」
「別に俺はだれかれ構わずキスしてるわけじゃねぇよ」
お前だけ、と凛は汐の手を取ってその指先に軽く口づけをした。
「あたしも、凛くんにちゅーされるの好き」
「されるのだけか?するのはどうなんだよ?」
ちょっと意地悪な質問をぶつけてみた。
口元がニヤつくのを必死におさえて余裕を保ってみせる。
「あたしからちゅーするのは、ちょっと恥ずかしい、かな...」
ほんのり頬を染めながら汐は答えた。
「...なんかお前、恥ずかしがり屋なのか大胆なのかわかんねぇな...」
予想外の汐の反応に驚いた凛は思わずつぶやいた。
キスが好きと言いながら自分からするのは恥ずかしい。
先ほどのいたずらな笑みとは裏腹に実は照れていたのかなどと考えるとどうしても頬が緩む。
「ねぇ、ニヤニヤ凛くん、朝ごはん食べる?」
「うるせっ。あーでも朝飯は食う」
ふたりはベッドから出た。
冷蔵庫の中なにがあったっけー、と独り言をこぼしながらキッチンへ向かう汐の後を凛は追った。