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Destination Beside Precious

第5章 3.Kiss? or More?


話すことで自己を振り返ることができるとはまさにこのことで、凛にとっても有意義なことだった。
すべて話し終わると凛は汐の方に体を向けた。

「いろいろ苦い経験も多かったが、俺はオーストラリアに留学してよかったと思ってる」
「うん、それは今凛くんのお話聴いててすごい伝わってきたよ」
留学先で見たものや感じたこと、ホストファミリーの夫婦のあたたかさ、異国の価値観や文化の違い。
それらすべてが今も凛の中で血脈のように巡っている。


(素敵な人だなあ...)

苦しかった経験もプラスに変えてしまう人。
それが凛だった。
過去のしがらみから解放されてから迷いなく前を向いて進んでいる。
汐はそんな凛が眩しかった。


「凛くんはどうしてオーストラリアに留学しようと思ったの?」

留学中の話はたくさん聞いた。
しかし、一番最初のきっかけの話は聞いたことがない。
汐は上目で凛を見つめる。凛の赤い瞳と視線がぶつかる。
今の凛は普段とは違って前髪をおろしていて少し幼く感じた。
凛の前髪に軽く触れてみた。
自分の前髪を触る汐の手を握り、前髪から離した。

「こら、お触り禁止」

そのまま凛の顔が近づいてきて、唇に柔らかい感触。
会ったときは絶対と言っていいほど凛がしてくれるいつも通りの優しいキス。

「俺がオーストラリアに行った理由な、水泳留学って言ったろ?」
「うん」
何故だかとても甘く感じた声だった。
そのトーンで凛は続けた。

「俺は将来オリンピック選手になりてぇんだ」

「…オリンピック?」
「そうだ。あの時俺は親父の夢を追うっつってオーストラリアに行ったんだ」
「...今もそうなの?」
「いや、今は親父の夢じゃねぇ。俺の夢だ」
凛は汐に将来オリンピック選手になりたいと言った。それが夢だと。
汐を見つめる瞳はまっすぐだった。
その瞳に凛の決意の固さを見る。

「そっか、かっこいいね」
汐の口からこぼれた率直な感想だった。
包み込むように柔らかく微笑む汐に凛は少し驚いたような顔を見せた。

「笑わねぇのか?」
「笑う?あたしが?どうして?」
今の話のどこに笑うような要素があるのだろうか。
汐は逆に聞きたくなった。
大きな夢を持っていて、それを人に話すこと。夢に向けてアクションを起こしていること。
汐は心からすごいと思う。

「や、それはその」
「むしろあたしはすごいと思うよ」
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