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Destination Beside Precious

第5章 3.Kiss? or More?


トイレのドアに背中を預けて凛は深くため息をついた。
先ほど見た汐の部屋の時計が指し示す時間は23:30を少し過ぎる頃。夜はまだ長い。

こんなに早くベッドに入ることになるとは思っていなかった。
凛の心は決まっているが、もし万が一、今考えてるような展開にならないとも限らない。
汐が煽ってくれば自分の理性などいとも簡単に崩れる気がしてならない。


(どうする...)

凛は着ているスウェットのポケットに手を突っ込んだ。
掌に硬いビニールの感触を感じる。
まるでその存在を確認するかのようにポケットからそれを取り出した。


(万が一...!万が一の為だからな...!)

誰もそれを持っていることを咎めていないのにも関わらず、凛は誰かに必死に訴えかける。
それは、避妊具だった。
正方形のビニールに包まれたそれは凛の手の中に収まってしまう大きさだった。


(これは俺が買ったわけじゃねぇからな...!)

誰かに訊かれてるわけでも無いのに凛はムキになる。
凛が持っていた避妊具は自分で買ったものではなかった。
クラスメイトに〝松岡はイケメンでモテるだろうから持っとけ!〟と、意味のわからないことを言われて渡されたものだった。


(ゴム持ってるって汐にバレたら軽蔑されっかな...)

凛には今夜汐の考えてることはわからないが、〝そういうこと〟をするつもりは無かったのに凛が避妊具を持っていることを知ったらどんな顔をするだろうか。
〝凛くんのヘンタイー〟と言って笑って流すだろうか。
〝そういうこと考えてたんだ〟と言って凛が見たことないような、汚物を見るような目をして引くだろうか。
もしバレても出来れば前者であることを祈りつつ、凛はトイレの扉を開けた。
あまりトイレに長居すると心配される。


まるで何事もなかったかのように汐の部屋へ戻る。
心臓はどきどきとうるさかった。

「凛くんおかえり」
ベッドに座っていた汐が振り向いた。
いつもどおり柔らかな笑顔。
その笑顔を見ていると自分がさっきまで考えていたことがあさましく思えてくる。

凛の姿を認めると汐はベッドの中に入り始めた。
端につめて凛が入るスペースを用意する。
セミダブルベッドだが、凛の肩幅を考えると少なからず密着しないとベッドから落ちそうだ。

「凛くん、どーぞ」
その笑顔は凛が普段見ているものだった。
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