Destination Beside Precious
第5章 3.Kiss? or More?
凛のページをめくる手が止まる。
それと同時に部屋のドアが開いた。
「凛くんお待たせ」
後ろから汐の声がした。
その声に凛は振り向く。
よほど深刻そうな顔をしていたらしく、汐は凛の顔を見て心配そうに眉を下げた。
「どうしたの?」
「、いや。なんでもねぇ」
手にしていた卒業アルバムを閉じて箱にしまう。
そして元あった場所である本棚の左端から2番目に戻した。
「中学の卒アル、なにか変なこと書いてあったっけ?」
凛くんがそんなに深刻な顔しそうなレベルの、と汐は柔らかな笑顔で凛の隣に座った。
あの、3人で笑っている写真がフラッシュバックする。
今自分の隣にいる汐も笑っている。
何かつっかえたような重苦しさを胸に感じた。
「いや、汐が心配するようなことは書いてなかった」
頭をそっと汐の肩にあずけた。
華奢な肩だ。自分とは比べ物にならない。
つくづく強い女だと思う。
「凛くんどうしたの?」
「…」
「眠いの?りーんくん」
「まだ眠くねーよ」
顔をあげた。
穏やかな赤紫の瞳が凛を見つめている。
無意識のうちに凛は汐を抱き寄せてキスをしていた。
風呂上がりだからか、抱き寄せた身体のぬくもりが心地よい。
「お前あったけぇなー…しかもなんかいい匂いするし…」
「凛くんどのシャンプー使った?」
「真ん中の白いやつ」
シャンプーやコンディショナー、トリートメントのセットが3種類並んでいたのを思い出す。
左から紺、白、紫だった。
「じゃあ凛くん今あたしと同じ匂いするよ。あれあたしのだし」
いつかの雨の日に胸を高鳴らせた匂いはこれの残り香だったのかと凛は思った。
「ね、凛くん」
「ん?」
「ベッドの中でお話しない?いつもあたしが喋ってばかりだから今日は凛くんのお話が聴きたいな」
「…!?」
先程まで感傷に浸っていたというのに、かあっと顔が一気に熱くなる。
突然すぎるだろ!という気持ちと、ここで引いたら男じゃねぇ!という気持ちと、そもそもエロいこと考えてるのは俺だけか!?という気持ちが凛の中でせめぎあう。
ベッド、という単語だけでここまで過剰反応を起こすなんてなんとも高校生らしい。
「俺の話?別に構わねぇけど。…の前にトイレ行ってきていいか?」
あくまでも平静を装う。
心臓が騒がしいのが自分でもわかる。
トイレの場所を説明する汐の声を背中で受け止めながら凛は部屋を出た。