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Destination Beside Precious

第5章 3.Kiss? or More?


「…悪い」
「あー凛くん謝らないで、あたしの言い方が悪かった。離婚したとかそういう理由じゃなくて、仕事の都合で前住んでたとこに残ったって意味!」
凛の表情が曇ったことを見逃さなかった汐はすかざず朗らかな笑顔を見せた。
どうやら凛の心配は杞憂だったようだ。
胸をなでおろしつつ汐の次の言葉を待った。

「前住んでたとこにある大学病院の勤務医なの。けど来年かその次くらいにこっち来るらしいよ」
「開業するのか?」
「違うよ。鮫柄の近くに大きな総合病院あるでしょ?確かそこの副院長?医局長?になるみたい」
どの役職になるのかは汐も曖昧なようだ。

「お前の親父さん、すごいんだな」
「すごい?なにが?」
「鮫柄の近くの病院ってあそこだろ?あんなでかい病院の次期副院長なんて」
「あー…言ってなかったっけ?」
「なにを?」
「あそこの病院の院長ね、あたしのお祖父ちゃんなんだ。世襲制じゃないけど歴代の院長は榊宮なんだよね。実は」
驕る様子など全くなく汐はカミングアウトした。
凛は驚嘆して言葉を失う。

「なんつーか、すげぇな…」
やっとの思いで出た言葉。最早すごいとしか言いようがなかった。

「親族はね。あたしは全然。璃保のがすごいよ」
代々医師の家系のお嬢様よりもすごいとはいったいどんな人間なのだろうか、社長令嬢くらいしか想像できない。

「お前よりすごいとかどんな人間だよ」
「あー…。…璃保の話はまた今度」
そこまで言っておいてそれはないだろと凛は言いたくなったが、それは心の内にしまっておくことにした。


「そいや、汐は理系だったよな」
「、うん」
「じゃあお前も将来医者になるのか?」
凛はそう問いかけた。深い意味は無かった。
ただ家系と類型的にそう思っただけ。

「…医者にはならないよ」

はっきりと、それは凛の頭の中に響くトーンだった。
凛は驚いて言葉に詰まる。心なしか汐の瞳に陰がさした気がした。

「ごめん。ならないてか、なれないよ。頭足りないし」
一瞬瞳にさした様に見えた陰が気の所為だと思えてくるほど柔らかな笑み。
罪悪感に駆られる。

「汐、」
悪い。と言いかけたところに風呂がわいたことを知らせる音楽が流れた。

「お風呂わいたよ。凛くん先どーぞ!」
「…ああ。さんきゅ」
凛はソファを立った。
そして、風呂へ誘導する汐の後を追ってリビングの扉へ向かった。
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