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Destination Beside Precious

第5章 3.Kiss? or More?


「っ…!」
近ぇ、と思わずぶつかった赤紫の瞳に顔が熱くなる。
両手を汐の頭の上のあたりについた、いわゆる壁ドン状態。
赤紫の瞳が凛をまっすぐ見つめている。
電車が駅に近づいたようで速度がぐっと落ちる。
上目で見つめてくる瞳と半開きの唇に、凛の中のなにかが揺らぐ。
キスしたい、そう思ってしまった。

「ね、凛くん」
「ん?なんだ?」
「ちゅー、してほしいな」
凛の心の動きを察知してか否か、汐は甘くおねだりしてきた。
あざとい、この一言につきる。上目で可愛らしく言われるとどうも自分は弱い。

「ばっ…!お前、電車ん中だぞ…!?」
他者に迷惑にならない程度のボリュームで凛は汐に言った。
心臓がドキドキバクバクうるさい。汐に聞こえてしまいそうだ。

「この位置ね、死角なの。それに人多いからわからないよ」
既に両手で壁ドン状態だ。傍から見ればキスしているように見える。

「…煽んな」
汐には届かない声で呟いた。
この後汐と一晩過ごすのだ。この調子では夜、理性が持つかどうか不安だ。

「ね、もう着いちゃ…」
う、と言う前に汐の唇に凛の唇が重ねられた。
ドアが開きます、というアナウンスで凛は唇を離した。

「ほら、行くぞ」
ドアが開くなり凛は汐の手を引いて歩き出した。
普段よりもちょっとだけ積極的な汐にどきどきしている。
いつもと違う満員電車という状況がそうさせているのか、それともこのあと…
どちらにせよ、電車内でキスをするなどバカップルのすることだと思い凛は淡いため息をついた。



「暗いな」
「いつもこんな感じだよ」
凛と汐は地元駅に到着した。
普段街中の比較的明るい夜に慣れているせいか、地元はやけに暗く感じた。
ここから汐の家まで歩いていく。

「いつもこんな暗い中歩いて帰ってんのか?」
「あー、夏貴が自転車で迎えに来てくれるよ」
いないときは1人だけどね、と汐は笑っていた。


「じゃ、行こっか」
秋の夜の涼しい風が吹く。
汐に促されて街灯の少ない夜道を歩き出した。



「ついたよ」
さすが駅から徒歩5分。軽い雑談をしていたらすぐに到着した。
汐は門をあけて凛を招き入れた。


(ほんとに誰もいねぇんだな)

汐の家には明かりがついていない。本当に今夜は2人きりなようだ。
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