Destination Beside Precious
第5章 3.Kiss? or More?
「楽しかったね、カニ祭り」
「そうだな」
凛と汐は地元へ向かう電車に揺られていた。
通常なら1時間に2本しか走っていないが、この日は岩鳶町でカニ祭りが開催された都合で増便されていた。
「それ、マジでケータイにつけたんだな」
それ、と言った凛の視線の先にはイワトビちゃんのストラップがあった。
凛と汐が射的で勝負した際に汐がゲットした景品であった。
「うん。だってなんか可愛いし?」
「かわ…いい…のか?」
汐のケータイで揺れているイワトビちゃんのストラップと目が合って思わず凛は眉を寄せる。
ことのいきさつはこうだ。
昨日凛は遙と射的で勝負した話を汐にした。
そうしたら汐は、あたしも射的得意なんだよねと意地悪っぽい笑顔を浮かべた。
汐なりの挑発だった。
珍しく挑発してくるから凛はそれに乗ったのだ。
「にしてもお前、すげぇ怖い顔して射的やるんだな」
「それは凛くんもだよ」
イワトビちゃんストラップを指でつつきながら凛は苦く笑う。
射的の屋台のおじさんが笑いながら言っていた。
〝兄ちゃん達、目つきも構えもターゲットを狙う殺し屋みてぇだな〟
自分がそうだという自覚はなかったが、確かに汐のそれはおじさんの言う通りだった。
直前まで、凛くん見ててねーと笑っていたのにいざ臨戦状態に入るとスナイパーのようだった。
一緒にいるうちにカップルは似てくるというが、こんな形でそれに直面するとは思わなかった。
窓の外を流れる景色がはっきりと認識できるようになってきた。
到着駅を知らせるアナウンスが流れ始める。
「もうすぐつくね」
「だな」
「やっと降りれるー」
お祭り帰りで電車の人口密度が普段と比にならないくらい高い。
2駅で降りる凛と汐はドア付近に立っていた。
『お出口は左側。ドアから手を離してお待ちください。なお列車左右に揺れますのでご注意ください』
「ぉわっ!?」
「きゃっ!」
ガタン、と電車が左右に大きく揺れた。
その拍子に凛はバランスを崩して転びそうになってしまった。
他の乗客もバランスを崩して転びそうになっていた。
もう少しアナウンスを早くしてくれれば備えることも出来たのに、と凛は文句を言ってやりたくなった。
「ぃって…」
「凛くん大丈夫?」
「膝カックンされた…」
「えー?ほんとに?転ばなくてよかったね」
「だな。汐は大丈夫か?」
凛は顔を上げた。